急がば回れ。…回りたくない時もある。

□ワイン、始まりました。
3ページ/8ページ



《side 春海》


この事件が起こったのは昨日の夜だった。

アーサーは入浴中。
あたしは掃除中で。


「ごらんあれが竜っ飛岬北のはぁずれとぉお」


見ぃ知らぬぅ人が、指を差すぅ。
やけに拳を入れながら歌っていた。
さらに歌い続けようとして歌詞がわからなくなってしまったので、鼻歌になりながらあたしは床に落ちてた布を拾い上げた。


なんで布なんか落ちてるんだろうなんて考えながら。
正確にはそれは布は布でも衣類に含まれる布だった。


拾い広げて見たそれは誰かさんのソムリエエプロン。



それもご丁寧に名前が刺繍された。


戦闘服だった。


「なんでこんな所に・・・・・・」


とか言いながら片付ける前に気になって刺繍を見てみてしまった。
いや、人としてどうだろうと思う。
だって付けてる所が所だし。

でも明らかに上級者どころかプロの技であろう刺繍が気になってしまったのだ。その時は。


少し顔を近づけた瞬間、少し感じる違和感。
ほんのり香ったバラの香り。


あ、少し嫌だな。
呟いてすぐだった。

それもすぐ忘れぐらぐらすると言うか貧血よりも立ちくらみに似ていた体の異変に驚いて。
思わずしゃがみ込む。



そしてこれだ。



「最悪だ・・・・・・」


まさかあのエプロンに薬の効果が残っていたと言うのか。

頭の中が今度は不安でぐらぐらする。
ここはどの世界だろう。
まったく知らない世界だったらどうすれば良いだろうか。対処のしようが無い。

かなり暗い。
ここが建物の中か外かもわからない。
・・・・・・家には帰れるだろうか。


そういえばアーサーは夕飯どうするんだ。
なにも言ってないで来てしまったから驚くだろう。
困るかな。

そう言えばあれ、締め切りいつだ?
神原に迷惑が・・・・・・はいいか。神原だし。


まったく、せっかくのクリスマスだからケーキを買ったというのに。
食べ損ねた。
ちょっと高いのを神原に買わせたのに。


ため息が吐かれる音と一緒に、なにかパチンと鳴った。
それと同時に世界が明るくなり、ここが部屋だという事を理解する。

頭を回し周りを見れば、まず一番に目に入ったのは。


「・・・・・・誰?」

「そんな事言われてもねぇ」


ワイン野郎ことフランシスのそっくりさんだった。
彼は瞼を何回も動かし瞬きを繰り返して。

声から判断するに、あたしが考えている人物と同一人物と言う事で間違いないかもしれない。


やっぱり、と事態をすべて飲み込んだ。


・・・・・・私はどうやらヘタリアに好かれているというか、縁があるらしい。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ