急がば回れ。…回りたくない時もある。

□部屋に響くピー音
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あと何時間後に控えてる明日はクリスマス。
きっとフランシスは来ない。
クリスマスケーキはなにが良い? とか聞いておきながら。
私に対してのストライキを興すだろう。


だって来なくて良いと言ったのは誰でもない私だ。
彼は私に呆れて来るはずもない。


フランシスなら呼べばすぐ来るのはわかってる。たとえ仕事の途中でも。
いや。それも昔の話なのかもしれないけれど。


でも彼には大切な仕事がある。
ただでさえ真面目に仕事なんてやらない彼に、私の所為で更に仕事を滞らせたくない。

だからいい。
NOの方のいいだ。


「寂しくはない」


自己暗示する。言い聞かせた。
いざフランシスからまた電話が掛かってきたりした時、うっかり来て欲しいなんて言わないように。

甘えたりなんかしないように。

寂しくはなかったが、きっと悲しくはあっただろう。
なんて自分の事をやけに客観的に見ながら。


私はフランシスに重たい奴と思われたくない。
捨てられたくない。
縋りつきたいのだ。

醜い。でもこれが私と言う人間で。
フランシスが過去に好きだと言った私なんだ。


どう扱って良いのかわからない、というのも本音だ。
フランシスの周りにいる女の子たちは可愛い。
・・・・・・フランス人ってずるいと嫉妬してしまうぐらいに。
その子たちの様にフランシスに接すればいいのかも。でもそれじゃ私が彼女じゃなくても良いんじゃないか。


今まで何度思ったかわからない疑問が浮かんだ時にまた、携帯の音が響いた。
電話の着信音。
それはフランシスからじゃない。

がっかりした自分がどこかに居た気がした。


手を伸ばして携帯を取って、名前を確認する。
アントーニョからだ。


「もしも」


あほぅとちゃうかお前!!


そんな声が携帯のスピーカーを突き抜けた。
まだ挨拶すらしてないというのに。


そのアントーニョの怒鳴り声はスピーカーどころか私の耳まで突き抜いたのだ。

いったい何事だろうととっさに離した携帯を恐る恐る耳に当てた。
まだ耳がガンガンしている。


『突然やけど、フランシスに最後に会うたのいつや?』

「・・・・・・半年前?」

『キスしたんは?』

「8ヶ月前?」


なんやそれ!
いつもとはまったく違うアントーニョにそろそろ私の耳を壊しそうなぐらいに叫ばれた。
なんでそんなに怒っているのか、それすらもわからないまま私は彼に説教をされたのだ。


なんだそれ!
こっちは状況すら飲み込めてないっていうのに!
なんだよ勝手に怒りやがって。
私だって相手の耳が裂けんばかりに怒鳴ってやった。


心の中で。



『お前ら付き合っとるやんな?』

「そうだけど」

『そないすれ違ったカップル見たことないで』


だからなにがいいたいんだ。
アントーニョには関係ないじゃないか。
アントーニョに私たちがどうあろうと関係ないじゃないか。


私は今にも電話を切ろうとボタンに指を掛けた。
もちろんそれは実行されない訳だが。
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