急がば回れ。…回りたくない時もある。

□部屋に響くピー音
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――――フランシスが寂しい言うとったで。


にわかに信じられなかった。
フランシスが人にそういう事を言ったとか。
アントーニョに弱音を吐くなんて。人に弱音を吐くなんて。

私にだってそんな・・・・・・と思いかけてやめた。
くだらない。私如きが考えて良いことじゃない。
私が望んで良いことじゃない。


「ばかみたい」


ついに電話は切れた。
私が切った。

頭がぐちゃぐちゃしてきてしまったから。
せっかくさっき整理してしたばかりなのに。
また新しい物が入ってきて、いつまでも片付けが終わらない。


とにかく今度アントーニョに会ったときはちゃんと謝ろう。
彼はフランシスの為に怒っていたのだから。

その謝罪がちゃんとかどうかは心配だけど。
思うのは簡単なのに行動に移すのが下手なのは私自身が誰よりも何よりもよく知ってる。


その事を決めたら深く息を吐いて、せめて落ち着こうと心掛ける。
さっきからこの携帯の所為で混乱しっぱなしの私の頭を、少しでも整理せねば。



まず、私はフランシスが好きだ。
なのにフランシスは私よりも他の子と遊んでた方が楽しいみたいで。
私は楽しくない。辛い。
でもそれは言えない。重い彼女と思われたくない。


それが私の設定だ。
揺るぎない設定だ。


だからアントーニョに怒鳴られても私にはどうしようもない。
逃げてるんじゃない。
撤退してるだけだ。

一時撤退だ。
また今度。


――――私がそんな風に言い訳したから。

そのまたが今着たのだ。
フランシスからの着信。
鳴り響く軽快なラブソング。


時計を見れば、いつの間にか日付は変わっていた。
今日はもう寝るべきだ。

しかし私は電話を放置せずに、受話ボタンを押してしまった。
止まった着信音。


「もしも、し」

『ボンソワール春海ちゃん』

「どうしたの? 随分突然だね」


こんなに頻繁に電話してくるとは思わなかった。
口がうまく回らない。
ついでに頭も回らない。

聞こえているのは愛しいフランシスの声のはずなのに、アントーニョの怒鳴り声がまた聞こえた気がした。


「メリー、クリスマス」

『メリークリスマス春海ちゃん』


今の私に沈黙は辛すぎる。
それでもなにを話すべきかも考えられない私は挨拶の言葉を述べた。

きっと軽く笑みでも浮かべながらフランシスは同じ挨拶を返す。


一体なんのようかと思いながらも、それを聞けない私。
いつもの事なのに、やけに焦る。次に何を言われるのかわからない。


しかし彼にしては珍しく、私にとっては辛い長い沈黙が訪れた。
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