急がば回れ。…回りたくない時もある。

□おめでとうとありがとう
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痛む頭をさすりながらコンビニへの道を歩く。
なかなか手強いですね。

バレンタインで浮かれてる奴は氏ね。
・・・・・・・・・・・・おや、荒ぶってしまいましたね私としたことが。恐れ入りますすいません。


「しかしバレンタイン中止宣言でもだめですか」


はぁ、と思わずため息をついてしまいました。
幸せが無くならないことを祈るばかりです。


まったく春海さんは何を考えているのでしょうか。
私も気付くのが遅過ぎました。
春海さんが作っていたのがチョコレートだったと。何故気付かなかったのが不思議なぐらいです。

そもそも彼女が何か作ること事態珍しいじゃないですか!


「どう思いますかぽちくん」


ぽちくんに聞けば、知らぬ。と言わんばかりに鼻をならされました。
おやおや、落ちてる食べ物に興味を示しては駄目ですよ。

匂いだけでも駄目ですってば。

くいくい、とリードを引くとぽちくんは諦めたのかまた鼻をならして歩き出す。


しょうがない、私も諦めて春海さんの恋を応援するべきなのでしょう。
爺、涙を飲んで娘を見送ります!


しかしどうでしょう。
相手によっては笑っていられぬかもしれません。

一体誰・・・・・・馴染みが深い枢軸の方でしょうか。


ドイツさんだったなら、誠実なのでまあ笑って宜しくお願いできます。
・・・・・・いえ、彼はドSなんでした! 春海さんが縛られたらどうするのですか。
春海さんがそれに耐えられるとは思いません。そんな事爺許しません。
イタリア君もきっとあの軟派さで春海さんを泣かせます。
すぐ違う女性に話しかけに行きますよ。彼の兄である南イタリア君も同様です。


プロイセンさんは・・・・・・まあ彼であることは無いでしょう。


おや。


「おにぎりに新しい商品が出てますね」


買っておきましょう。
豚マヨキムチですか・・・・・・なかなか濃厚そうな組み合わせですね。

無意識に店に着いた事に若干引きつつも私は会計を済ませる。
考え事してると意識しなくてもしようとしてる事は出来るんですね。


考えすぎてる自分が気持ち悪いです。
皆さん知らないでしょうがずっと歩いていたんですよ私は。


そして外を歩き出せばぽちくんがひたすら草の匂いを嗅いでいます。
私も空気を吸い込んで、やっと春海さんの結婚式に出席する決心がつきました。

爺、春海さんの花嫁姿見るまで死にません。


それでもお舅の役目はさせていただきます。
まずは酒盛りからです。

酒癖が悪ければすぐ追い返しますからね覚悟して下さい!


「それでも寂しいですね」


ぽちくんぽちくん、あなたはどう思いますか。
あなたが大好きな春海さんに彼氏が出来るかもしれない。許せますか?

ぽちくんの方を見れば、ぽちくんも私を見ます。
アイコンタクトをとってから再び前を向いて歩きます。

どうやら彼はあまりわかってくれないようです。


・・・・・・家が見えてきました。
ぽちくんが楽しげに足を進めて行きますが、私はどうも気が重たくなるばかり。
扉の前で、改めて深呼吸。
大きく吸って、引き戸を開けました。


「只今帰りました」

「誕生日おめでとうございます菊さん!」

「はい?」


どういうことですか。
爺は状況を理解できません。
どうしてこうなった。


私は頭にかかった細いテープを摘み纏める。
全てクラッカーから出た物たちです。
扉を開けた瞬間に私に襲いかかってきました。

それよりも彼女はなんと言いました?
誕生日? 誰の? 私の?


「お誕生日ケーキにチョコレートケーキを焼いたんです」

「え、あ、ありがとうございます」


もしかして、全て私の勘違いでしょうか。
え、バレンタインは?
嫁入りは?

もしかして、早とちりでしたか?


春海さんの満面の笑みに、つられて私も笑い出す。

状況と空気を読みました。
とても恥ずかしい話です。

・・・・・・春海さんには内緒ですね。


「いつものお礼を含めた、お八つです。あと、肩たたき券」

「春海さん・・・・・・」


爺なんだか涙が零れました。
良かった、と言う安堵からか。
恥ずかしさからなのか。


なんだかとても疲れた1日でしたが。
これで納得もいきましたし、疲れも吹っ飛びました。

肩たたき券、と言うのは昔から変わらないプレゼントでしたね。
しかし、今年はこんなに素敵な物までついて来るなんて。


「いつもありがとうございます、菊さん」


年をとるのも、バレンタインデーも、なにもかも許しましょう。



あなたがおめでとうありがとうを言うから

(嬉しくてどうでも良くなりました)




》あとがき
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