急がば回れ。…回りたくない時もある。

□アンハッピーハッピーバレンタイン!
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「ご拝読願います、ってなにが言いたいんだ」

「え、尊敬語じゃないんすかこれ?」

「尊敬どころか謙譲だよ」


昼。

小説家、もとい春海さん宅に到着。
いつもの様に目的の物、USBが春海さんのパソコンから外されるのを待つ時間があって。


もう既に数時間。
春海さんのあるかわかりにくいプライドの為、敢えて誤魔化して数時間。

その数時間をそこそこ待っている事を今言っておこう。


「じゃあここはなんて?」

「お目を通して頂きたいと存じます」

「まじですか」

「もしくはお目通し願います」

「あ、そっちがいい」


俺は原稿を待ってる間に俺自身も仕事を進める。
仕事の先方に手紙を書かねばならんのだ。

昔から字は綺麗でも中身が駄目だと言われ続け、しょうがないので最近は春海さんに頼りながら書くようにしている。
敬語の使い方がよくわからない。

結果ご拝読、は言葉的にクソだと言われた。


もちろん彼女にも仕事は続けて貰っている。

彼女の手が休む事なく動き続けていく。
多分某笑顔動画に行ってるわけではないと思われる。


よくそんな早さで話が浮かぶよな。なんていつか実際に質問した事を改めて思った。
彼女曰く、足りないのは時間だと。


・・・・・・どうせ家でひきこもりなんだから書けばいいんだよ!

実際彼女がやる気さえだせば一月で一冊の本が出せるのに。


例にあげると、前に一度携帯小説に興味を持った時。
みっちり、それこそ俺が泊まり込みでいないと飲み食い一切なしで二週間で書き上げやがった。

正確には13日間。


春海さんの頭の中にはきっと常に何人かの人間が住んでて、その人間達がする事を文章に書き起こしてるだけなんだろう。

だからきっと頭の中ではその生きてる人間が滑稽に、人間らしく過ごしてて、だから読む人が惹かれていくんだ。


俺は手紙を書きながらも春海さんの背中を見つめる。
ああ、また髪が伸びた。

6年も前に最初に会ったときはまだ茶髪のショートだったのに。
あれから髪を切ったり切らなかったりで長く伸びた髪は、毛先だけ茶色い。


「春海さん、あとどれくらいかかりますか」

「あと2時間」

「量的には」

「約5万文字」

「じゃあ1時間ほどでお願いします」

「タヒれ」


手紙もやっと書き終えた。
あとは春海さんが書き終われば会社に帰れる。
上司にも睨まれなくて済む。
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