急がば回れ。…回りたくない時もある。

□流星に乗って
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今日のデザートはブッシュドノエル。とろけるような口当たりが最高だった。
緩みっぱなしの頬を抑える事もせずに、私はフランシスにおいしいおいしいと言うのだ。

彼がそれを嬉しそうに聞くもんだから、私も嬉しくて堪らない。


「ワインおかわりは?」

「もう一杯欲しいな」


フランシスが注いでくれた三杯目のワインを口に含んでから、小さく好きだよと囁いた。
当たり前の様に愛してると返ってくるのが嬉しくて、私は身を乗り出して彼の頬に口を寄せる。

一瞬驚いた顔をした彼だが、すぐ目を細めて私の頭を撫でた。


その優しい手がとても心地よくて、また思わず目を閉じる。見えなくなった視界で、唇になにか当てられた。
驚いて身を引くと、してやったりといった顔をしたフランシスと目が合う。


「顔真っ赤」

「お酒の所為だよ!」


理由なんて私もフランシスもわかってる。それでも誤魔化そうとグラスに残ったワインを呷った。
のどを通る熱い液体にやらかしたかなと思ったが、それもすぐになくなる。

ねえ。私の手を握ってフランシスが言った。


「どうしたの?」

「ちょっと外に出ない?」


寒かったら羽織りなよとブランケットを渡してきたフランシスは、私の答えを聞いてないようだった。

彼の数歩後ろを付いて歩くと、相変わらず豪華な飾りの付いたベランダに到着する。
ガラスのドアを開けると、外の涼しい風が入り込んで身震いした。ブランケットを羽織り直して、足を前に出す。


来る時に見たように、フランスの空は快晴だった。
肺に入る空気は冷たいが、体が火照った今はそれがちょうど良い。


「星綺麗だね」

「え? あっ、うん」


隣に立つフランシスに声をかけたが、あまりはっきりした返事ではなかった。
不審に思い顔を覗けば、あからさまに顔を反らされる。なんだろう。

どうしたのとまた声を掛ける前に、肩をがばりと掴まれて。あのさと話が切り出される。


「今日、流れ星が流れたら俺と結婚して欲しい」

「……は?」


私が声を漏らすと彼は慌てたように勢いよく肩から手を離した。
暗くてよくわからないが、真剣な表情をしているのはよくわかる。

フランシスは今なんと言ったのだろう。いや、聞き逃したわけではない。
ただにわかに信じがたいだけで。


もしかしてたった今。私はフランシスから、プロポーズされたのだろうか。
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