急がば回れ。…回りたくない時もある。

□カプチーノに笑んで
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今日は雪が降るだろうか。
タクシーの窓から外を覗き込む。

隣にいる銀髪野郎はまだなにかを考えて居て、話し相手にもなりやしない。
時々話し掛けても返ってくる言葉は「ん」の一文字だけ。
これならオウムの方がまともな返しが出来る。


あのカプチーノ美味しかったなぁ。と言うか食べたばっかりなのによく夕食にしようと思ったよな。
確かに食べれるけど。ワンピースの上から自分のお腹を撫でた。

ギルとあまり喋っていない気がする。
せっかくのクリスマスなのに、楽しさが半減した様だった。


「ねぇギル」

「……」


もはや返事すらない。屍のようだ。

口元に手まであてがって、ポーズは将に考える人である。
彼は地獄について考えているが、ギルは何考えてるんだかわからない。


遠目に目的地が見えた。あと数秒で着く。
どうせこいつは何もわかってないようだから、財布の準備を始める。

ちらりともう一度みたギルは、がしがしと髪の毛をぐしゃぐしゃにしていた。
何を考えているかなんてもう知るか。


「ギル降りなよ」

「ん、ああ」


わりいなとやっと言葉を発したギルは、財布を出そうとポケットに手を入れた。
もう払ったよと強めに言えば、赤い目をまん丸に見開く。そしてへにゃりと眉尻を下げる。
どうやら一応払う気では居たらしかった。

しょうがないのでチップはギルに任せ、私たちはタクシーを後にする。
レストランはすぐ目の前。要予約と書かれた看板が出ていて改めて驚かされた。


「楽しみだね」

「そうだな」


全然楽しみじゃなさそうにギルが言う。
思わず奥歯を噛んだ。なんだなんなんだこいつ。


ふっと強くなった怒りは寂しさに変わって、怒鳴りつけようとした言葉も寒空に消えた。

寂しい。
楽しみにしてたのも楽しんでいるのも自分だけじゃないだろうか。


「ほら、行こうぜ」


珍しく着けている腕時計を見ながら、ギルが私の手を引いた。

その姿がなにか急いでいるように見えて、なんとなく、どうしてか、長年の勘のが働く。
もしかして、なにか計画でも立てているのかもしれない。


「……ねぇギル?」

「なんだ?」


コートを店員に預けながら、ギルに言葉を投げかける。寒かったのか頬が真っ赤になっていて笑えた。

とりあえずカマを掛けてみようと、何か考えてるのと聞いてみる。


「い、や、そんな」


目を白黒させながら首を振ったのを見て、こんなに隠し事が下手で大丈夫かと心配になった。
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