急がば回れ。…回りたくない時もある。

□hug me!!
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ことこと。塩まじりの水が温かくなっていくお鍋の中。
きっともうじきパスタが入れられる温度になるだろう。フェリの鼻歌を聞きながら思う。

そのとなりでは厚切りのベーコンが今将に火に掛けられる所だった。
卵と粉チーズがたくさんあるから、今日のパスタは私がだいっすきなカルボナーラだ。それっきゃない。


「火使うから危ないよ」


私が頬をつける背中の向こうから声が聞こえた。

この落ち着く優しい声はフェリ以外の何者でもない。……そもそもこの家にはフェリと私しか居ないのだが。


そして私はそんなフェリの背中に引っ付いて、お腹に手まで回している。うああ幸せ。
彼のお洒落な肌触りのジャケットに顔を埋め込んで、これでもかと大きく息を吸った。


フェリのにおいに混じった香水のにおいがほんのり香って、今日は柑橘系だなと一人判断する。
この匂いは以前私が一番好きだと言ったやつだ。


「春海、聞いてる?」

「うんはい聞いてますぅー」


何か話しかけられているのを理解してそう返事する。
するとどうした事か突然、フェリのお腹の上にある私の手に彼の手がかぶせられた。
暖かいのとつやつやな肌触りにびっくりしてひゃと声を出す。

優しく撫でられた後ゆるゆると手をほどかれて。
もしかして嫌になってしまったのかと心配になる。


「火を使うから危ないってば」


わかってる? と首を傾げたフェリがこちらを見た。
そう言えば言われたような言われてないような。

そんな事より、こてんと首を傾げて困った顔をしているフェリが可愛すぎて私はどうすれば。


「危ないからダメだよ」


ぶにと私の肉がたっぷりついた頬が摘まれて、はわわわわと意味も無い声が口から漏れる。
フェリの細い指が私の肉を摘んでいると思うと漏れるどころか雄叫びを挙げたいぐらいだけど。

それはそうと私の肉なんかどうでもよくて、フェリが危ないと言っているのだから離さなければ。
あ、だから離されたのか。


「いい子いいこ」


ほへりと笑ったフェリに撫でられて、私は腰を堪能するのを諦めた。
おとなしくキッチンの入り口近くに座りこんで、パスタが出来上がるのをじっと見ることにする。


余談だが料理をするからとジャケットの袖まくりをしたときに見える、フェリの腕の筋が堪らない。
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