急がば回れ。…回りたくない時もある。
□hug me!!
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今日のカルボナーラも最高だった。太いパスタに絡まるクリームソースはいっそそのまま飲めるぐらい美味しかった。
卵とクリームの濃厚な味が、まだ口の端に残っている気がする。
「春海」
「なに?」
作るのがフェリの仕事だとしたら、片付けるのは専ら私の仕事。
フォークを左手に、スポンジを右手に持ってそれをこする。
二本のフォークを泡まみれにしたら、次はお皿に。
少しずつ食器を洗っていく達成感が心地良くて、どんどん進めていく。
すぐ後ろにフェリが居るらしく、水道の音に混じり時折ねえねえと声が聞こえた。
「春海ったら」
「なに?」
あまりにも呼び掛けられるので、辛抱たまらなくなった。
水道を止めて振り向くと、フェリのにこにこした顔がすぐ近くにある。ひゃふ、驚いて腹から出た言葉に構わずフェリが距離をあけない。
ぽぽぽと顔に熱が集まって行くのがわかった。
だってどうしてあれだ大好きなフェリのその整った麗しい顔が近くにあれば誰だってこうなる。
現に私はいま気絶するかフェリの体に飛びつくかの二択しかない。
「口の端っこにクリームついてる」
「え?」
私が彼の言った言葉を脳みそで理解するより先に、フェリが動いたという事が判った。
ちゅうと可愛らしすぎるリップ音がやけに大きく聞こえて、その次にフェリが良く出すあの声が聞こえた。
ヴェー、だ。
「とれたよ」
「あ、は、ありがとうございます!」
一瞬なんのことかさっぱりまったくわからなかったが、これは洗い物お疲れ様のキスとかではなく、口に着けたクリームをとられたという話だ。
そこまでわかって、脳みそだけじゃなく体全体が騒ぎ出す。
恥ずかしさやら嬉しさやら恐れ多さやらに追いかけ回されて、今すぐフェリに抱きつきたかった。
だがさっきから私がそうしないのは、洗い物してる途中で手が濡れているからである。
本当なら体で感謝の意を表したいが、それがどうも無理らしい。
わたわたと慌てた末、力いっぱい春海、フェリ、好きーと言ってみた。
たしかそんな感じの映画があった気がする。
「うん、俺も好きだよ」
あとそんな映画あったよねと笑いながら言うフェリに、私はやっぱり我慢できず濡れた手で彼を抱きしめた。
やっぱり幸せそうに笑うあなたが大好きです。