急がば回れ。…回りたくない時もある。

□ゆるりと溶く
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待たせたなといつもと同じように彼が言って、大丈夫と私が答える。
鐘の音がどこか遠くに飛んでいくように感じた。まだ耳の中にも残っている様な気がする。

大きな部活用のバックは、やっぱり細身の彼に似合わない。


「ロマ、ほっぺた赤」

「るせーちきしょー」


外に居たからか、ロマの頬は紅潮していた。
寒そうだと、その頬を両手で包む。手の表面に貫くような冷たさが広がる。

うひいと思わず声を出せば、目の前の彼が歯を見せて笑った。


「あったけ」

「ロマはしゃっこい」


二人でそうやって笑らってたら、いつの間にか一人ぼっちの寂しさも忘れていて。
私は少しずつ暖まってきた彼の頬をうりうりと撫でつける。

止めろと彼の口から漏れる様に聞こえたが、まだ頬が暖まりきっていない。
手のひらの温度が低くなってきてしまったので、どうしようと考え手の甲を当てた。


「ほっぺたむにむにー」

「やめひょって」


あ、今変な風になった。
ロマも自分でそう思ったのか、かああと顔を赤くする。少し暖まった様だ。

ぱっと手を離せばロマがそれを掴んで、ぎゅうぎゅうに握る。
なんだどうしたと首を傾げれば、ばかと小さくそれでも確実に聞こえる様に言われた。


「春海先輩の手が冷えるだろ」

なんだそんな事か。思わずふふと笑えば、なんだよと彼の目が言った。


彼は私が思ってるより少し多く私を大事にしてくれているらしい。
ロマが女の子に優しいのはよく知ってるが、彼女の私はまた少し違うらしいのだ。
彼はあまり恰好付けない。
恰好付ける事はあまり良くない用に私は思ってるが、ロマの中で恰好付けるということは礼儀の様な物だ。

だから、礼儀が無くても平気な仲になれたって思えばそれはそれでとても嬉しい。
少しばかり、不安でもあるけど。

本当は嫌なんじゃないか、もっとほかに好きな子が居るんじゃないか。
そう思う旅に遠距離恋愛の壁がまた高くなる。


きっと、私の不安なんて彼には微塵も届いていない。


「帰りになんか食うか」

「たいやきがいいな」


私も微塵も出すつもりじゃなく、にこにこと笑いながら鞄を持った。
ああ、どうして一年遅く生まれなかったんだろう。

先輩と私を呼ぶ声が私を刺した。
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