急がば回れ。…回りたくない時もある。

□ゆるりと溶く
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散々たいやき屋さんの前で悪ふざけをした後、また寄り道をした。
高校生なのに公園のブランコを占領しながら、だらだらと適当な話題を繰り返している。


そんな時間すらも凄く愛おしくて、また不安げな顔をした私が姿を現した。
いいって、ひっこんでよ。

なのにロマはそんな私を引っ張ろうとするのだ。


「もうすぐ卒業だな」


先輩。いつも通りに言われた筈なのに、それは鋭く尖って私を貫いた。
そうだねと無理やりに笑顔を作って返事をすれば、ブランコが揺れる独特の音がする。

ずっとブランコを漕いでいられたら良いのに。
ロマが出すその音を聞きながら、小さく呟いた。キイというその音に私の言葉はかき消される。


「遠距離になるな」


ブランコの音より大きいロマの言葉に、そうだねの返事すら出せなかった。
どうして今言っちゃうかなぁ。

ねぇ。どうせかき消されるだろうと呼び掛ければ、予想外に返事が来た。
ブランコの音が止む。


「平気なのか」

「うーん、わからない」


本当はノーだ。耐えられるはずがない。
だって、最初の一カ月は平気だとしても、半年後は?一年後は?

そんなのきっと無理だ。
だけど言えない。ロマはきっと平気だろうから。


「ロマは?」

「俺はまぁ……平気だ」


ほら、そうやって言う。
足下の小石を蹴りながら、目に力を入れた。頑張れ私。

ブランコの鎖を握りながら、ロマが更に言葉を続けるのを待った。


「夢の為の進学だろ」

「……うん」

「頑張れよ」


やっぱり二度目の返事は口から出てこなかった。
なんだ、ロマは、そんなに平気なのか。

だったら後々悲しくならずに、今一気に悲しくなっちゃえば良いんじゃないか。ばか。ばかばかばか。


「ロマのばか」

「は?」

「私ばっかり一緒に居たい」


なんてわがまま言ってるんだろう。恥ずかしくて顔をあげられない。
隣のブランコが不自然に揺れて、ロマが降りたんだと察した。

呆れられたかな、年上なのにわがままで。


「本当はずっと一緒に居たい」

「じゃあ、ちょっと待て」


どうして。なにを待てば良いんだ。
もうすっかり抑えられなくなった涙が頬を落ちた。


「春海先輩」


暖かい手が頬を撫でて、それが誰でもないロマの手で。
あまりの近さに驚愕して顔を上げた。


「来年、俺も先輩を追っかける」

「一年って長いんだよ」

「約束するから」


約束ってなにを。嗚咽が混じった声に情けなくなりながら、ロマを睨む。
涙が零れて、彼の顔がよく見えるようになった。


「あんたは俺の物だ」

「……はぁ」

「け、結婚、してやるよ」


そう聞こえた瞬間にロマの姿が見えなくなって、暖かい何かに包まれて、やっと事を理解した私がもう一度泣いた。


もうあんたを先輩って呼ばなくてすむ。

嬉しそうなロマの声が聞こえた。
私はどうやら、自分で思っていた数万倍くらい愛されていたらしい。




》あとがき
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