急がば回れ。…回りたくない時もある。
□○○なあの子の話
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ネクタイを締めた。ジャケットも新調した。
髪の寝癖は何度も確認したし、香水は一番気に入ってるのを一吹き。
鏡の中の自分も完璧なら、俺も完璧。
財布の中をもう一度確認したなら、いざ出発である。
寒い外に身震いしながら、待ち合わせ場所へと向かった。
パリの町もクリスマスムードで、ノエルの人形が飾られている。
日本を真似たらしい煌びやかなイルミネーションが木々に巻き付けられていて、きっと夜になれば町並みは綺麗になるのだろう。
待ち合わせはいつもの公園噴水前。待つにはちょっとばかり寒そうだから早めに行かなきゃ。
多分すでに待っているだろう可愛い彼女を思い浮かべては、顔がにやけるのを抑えている。
ポケットにある小さな箱ももう一度確認した。
愛する彼女に捧げるプロポーズ。ほわりと花のように笑う顔を早くみたい。
喜ぶだろうか。笑うだろうか。
頭の中で今日一日の流れを浮かべていく。
ちょっと不安な要素もあるが、まあ俺がなんとか出来るだろう。
途中花屋で薔薇を買って行けば、店員の女の子がデートですかと首を傾げた。
小さなブーケが出来ていくのを見ながらにこり笑えば、女の子もにこり笑う。
可愛い笑顔に思わず甘い言葉も出そうになるが、今から春海ちゃんに会うのにそんな事を言うわけにもいかない。
ブーケを受け取り足早に公園へ急ぐ。
春海ちゃんをイメージしたピンクで小さな薔薇のブーケを崩さない様にしながら、走ったぐらいにして。
この時間なら居てもおかしくないかな。腕時計を見て遠くの噴水に目をこらす。
水が跳ねて冷たいだろうから離れれば良いのに、その縁に座っているのは間違いなく春海ちゃんだ。
そういう子だから、間違いない。
あの子はいつも抜けているから、時折とんでも無いことを言ってのける。
ただ、そんな所もまた堪らなく可愛いのだ。守ってあげなければいけないと思う。
「フランシス!」
縁に座っていた女の子が、聞き慣れた声で俺を呼んだ。
ふっかふかのマフラーを巻いて、彼女の細い体が倍の大きさになるコートを着込んだ女の子。
相変わらずふにゃりと笑うのは、俺が世界一大好きな春海ちゃんである。
「待った?」
「ううん、一時間ぐらい」
……一時間も噴水の前で待ってりゃ芯まで冷えると思う俺は間違ってるだろうか。
真っ赤な頬をした彼女はまぁこんな子なのだ。