急がば回れ。…回りたくない時もある。
□○○なあの子の話
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春海ちゃんの手は想像通り冷たくなっていて、ともすれば一時間を越すぐらいは待って居たのだろう。
近くのカフェにでも入れば良い物を、この子はそうしないから困る。
寒いだろうに、彼女は全然大丈夫と思っているしそう言うのだからこっちが困る。
あーあ、これじゃ手先の感覚が無いだろうに。
そう、俺だって最初は気付かなかった。
彼女は俗に言う天然ってやつなのだ。ほら、モナコが偶に真面目な顔してボケちゃうようなあれ。
あれが慢性的なものだと思って欲しい。
それに気付いた時か、それよりも前か。
俺はもう春海ちゃんにベタ惚れで。
どんなに天然だったとしても、それがまた可愛くてしょうがないのだ。
偶に予想もしないような行動に出られて困っちゃう事もまああるが、それでも満足だ。
「今日はどうするの?」
今にもスキップしだしそうな春海ちゃんが聞いてくる。時折手に持つちっちゃなブーケの香りを嗅ぎながら笑ったぐらいにして。
俺はどうしよっかとたった今考えてるフリして顎に手を当てた。
本当はもうとっくの一週間前に決まってるんだけど。
お兄さんの春海ちゃんたっぷりお楽しみツアーはこうだ。
まず軽い食事。クレープとかケーキとかを食べにカフェなんかに連れて行く。
それからそこで春海ちゃんの行きたい所を聞き出して、彼女を楽しませる。
そして最後にイルミネーションを見ながら、プロポーズ。
綿密に重ねたシュミレーション。春海ちゃんがどんな突飛な案を出すかも考え抜いて、ジェット機をチャーターしている。
作戦と準備の完璧さと言ったら、鮮やかすぎて美しいぐらいだった。
「カフェで甘いものでも食べない?」
「わ、やったぁ」
嬉しそうに笑うのを見て、まず最初は順調だと胸を撫で下ろす。
最悪ここでインドカレーを食べたいと言われるかも知れないと思って下調べしていたのだが、まぁ大丈夫だ。
今居るところから一番近くて美味しい店を頭に出して、春海ちゃんの手を引いた。
この調子でうまく言ってくれよ。
春海ちゃんの手にあるブーケが、俺を応援するように揺れた。