急がば回れ。…回りたくない時もある。
□○○なあの子の話
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さくりとミルフィーユにフォークが刺さる。赤い苺や苺のクリームと添えられたミントの葉がクリスマスカラーで、春海ちゃんはそれはそれは大はしゃぎだった。
イベント事がまず大好きな彼女にとって、世間がそういう空気になるのが楽しいんだそうだ。
「おいしい?」
「とっても」
満面の笑みでそんな事言いながら一緒に飲んでるのはコーヒーでも紅茶でもなく何故かドクダミ茶だったりするんだけど、まあ可愛いからいっか!
俺も頼んだコーヒーを飲みながら、美味しい美味しいと笑う春海ちゃんを見つめる。
この子とずっと一緒に居られたら、きっと幸せだろう。
抱き締めたくなるのをぐっと抑えて、これから何処に行きたいかを訊ねてみた。
「どこが良いかな」
春海ちゃんが眉尻を下げて笑ってるのは迷ってる時だ。
それを熟知しているから、彼女が考えれば考える程突飛な発案をするのも予想できる。
地球の反対側とかじゃなければなんとかなりそうな気もするんだけど。
それでも緊張して答えを待っていた。
そんな俺の視界が、真っ赤になる。
「ノエルだ!」
「え?」
ぽかんと口を開けて、その赤にピントを合わせる。
それは春海ちゃんが言ったとおり、真っ赤な服に白い髭を蓄えたペール・ノエル。帽子と髭の間に見える青い目は細められていた。
どうやらカフェの方がサプライズでノエルの仮装をしているらしい。
突然の事に頭が追いつかないでいるうちに、ノエルはキャンディを春海ちゃんに手渡していた。
彼女も彼女でノエルにたいそう喜んでいて、思わず顔がほころぶ。
春海ちゃんを喜ばせるノエルはちょっと憎いけど、彼女がよろこんでいるならそれで良い。
「あの!」
不意に春海ちゃんがノエルの腕を掴んだ。
彼は白い髭を揺らして首を傾げる。もう何もあげられないよとジェスチャーしていた。
そういう訳じゃないらしい春海ちゃんは首を振って、また口を開く。
「その付け髭暑くない? 大丈夫?」
思わずひいいと声が出た。
ああなんというか彼女のいつもの天然だけど。そりゃ解ってるけど。
ノエルも助けてくれと視線を寄越している。
対する春海ちゃんは相変わらず笑顔で、悪意の欠片もない。
天然だと言うのは充分過ぎるほど知ってたけど、こんなブラックな言葉は初めて聞いた。