急がば回れ。…回りたくない時もある。
□サンタが笑う
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「春海、あれは何だい?」
「割れない風船みたいな雪だるま」
なんだいそれcoolだね! そう叫んだアルフレッドは喫茶店の看板代わりに置いてある雪だるまの飾りに飛びついた。
止めてくれと体を引っ張るが、また太ったのか重たい体はびくともしない。
今日何回目だろうか。
クリスマスムードの日本が珍しくてしょうがないのか、はたまたテンションハイなだけなのか、彼が落ち着くことはない。
さっきだって玄関でダンボールをひっくり返したかと思えば、外に行こうの一点張り。
慌てて支度を済ませてる最中にアルフレッドがコーヒーを煎れ始める。
それを着替えを終わらせた途端に飲み始めるのだから、流石にあのアンテナを引っ張った。
そのテンションでここまで来てるから、そりゃもう大変でしょうがない。
「春海、これ買おうよ! 君の部屋に似合うさ」
「要りません」
何でだいとして返してくる彼の眉間をぐりぐり押して、怯んだところをまた引いた。
少しずつ離れていく喫茶店に手を伸ばすアルフレッドにため息が止まない。
勘弁してくれよ。なんて思う暇もなく。
目の前に雑貨をたっぷり並べた出店が現れた。
「春海、これキュートじゃないかい?」
「そうだね」
でも無駄遣いはいけませんと続けると、彼の口がとんがる。そんな口しても駄目な物は駄目なのに。
まるで大きな子供だ。また痛みが強くなった頭に塞ぎ込みたくなった。
こんなことするために日本に来たんだろうか。
もっと二人でゆったりとしたクリスマスが良かったなぁ。これならカリフォルニアでのクリスマスの方が楽しかった。
なんて比べちゃいけない事を比べてもしょうがないし、日本でのクリスマスだって彼が望んだ事だ。
気を取り直して楽しくすごそう。
そう思った瞬間に。
「ヘイ春海! 一個食べるかい?」
「……」
わざわざ高そうなソフトクリームを片手に三つ持ったアルフレッドが現れた。
▼ にげられない!
もう知らない、ばかアルフレッド。勝手にしろ!
力いっぱい怒鳴って、私はアルフレッドから逃げ出した。