急がば回れ。…回りたくない時もある。

□僕らの屋上に誓う
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変な沈黙が流れている。私は息を切らしてはあはあ言ってるし、アーサー先輩は何も言わないし。
どうするんだこれ。


アーサー先輩が息をすう音が聞こえた。


「誰か居るのか?」

「やべっ」


沈黙は予想外の所から破られた。
階段の下の方から知らない声。たぶん見回りの人って奴だろう。

アーサー先輩が明らかにあわてた声を出して、残り一段も扉もあっという間に過ぎていった。


アーサー先輩越しの背中で扉が閉まるのがわかる。はあ、びっくりした。
だが頭上に広がる空を見上げた瞬間、それらに目が釘付けになった。


「わぁ……!」


思わず感嘆の息も漏れるってもんだった。うわあ、うわあ。同じ言葉ばかり出てくる。
空に広がるのは満天の星。文句の付けようもない、それこそ満点のきれいな星たちが散りばめられていた。

先輩も後ろで綺麗だなと息を吐くように言って。
後ろからアーサー先輩の手が回ってきたと思えば、ぎゅうと抱き締められる。


ああ、今一番幸せだ。


「幸せだな」


心で呟いていた言葉が、頭の上にあるアーサーからも聞こえて。
同じ事考えてたんだなぁと思うと、思わず頬もゆるんだ。

このままずっと同じ学生で居られたら良いのに。


なあ。アーサー先輩が言う。


「俺は卒業するから、お前ら頑張れよ」


お前らって、たぶん生徒会の事だろう。突然どうしたと首を傾げそうになるが、黙って聞く。
きっと先輩がいない生徒会は今よりずっとつまらないけど、私はうなずいた。


「あんま無理すんな」


またうなずく。
喉の奥が熱くなってきたのがわかった。


「好きだ、春海」


こんなの、別れの挨拶みたいじゃないか。
つんと喉の痛みがまして、視界も滲む。それでも懸命に声を絞り出して、私もですと返事する。

先輩が居なくなるなんて嫌だ。言える訳が無いけど。


「寂しがるなよ」

「……別にそんな事ないです」

「一年待つのは俺なんだぞ」


は、と気の抜けた声がこぼれる。
上を向くと、涙越しに滲んだ先輩が私を見ていた。

返事が思い浮かばず言葉を待てば、アーサー先輩が私の額に唇を押し付ける。


「卒業したら、一緒に住もう」

「……それって」


プロポーズのつもりですかなんて、こんな時ばっかり空気が読めない言葉が出てきた。
アーサー先輩の頭の向こうできらめく星が、滲んでそして流れていった。




》あとがき
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