急がば回れ。…回りたくない時もある。

□師走を駆け
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ひゅるりと風が道を抜ける。少しばかり昨日より冷たくて、冬らしさが強調されていた。
見上げる空は相変わらずどんより曇って居るが、雲が薄いのか暗くは無い。

このままだともしかしたら、少しぐらい降るんじゃないだろうか。


「少し降るやも知れませんね」

「あ、やっぱり?」


隣の菊さんが思ったことと同じことを言って、二人で空を見上げる。
目を凝らせば今にも白い雲から白い雪が見えそうな気がした。

道に視線を戻すと、前からも同じ様に手を繋いだ男女が歩いてきている。
そこでやっと、さっきの菊さんの言葉の意味がわかった。


「菊さん、プレゼント買ってくれるの?」

「え? ああ、春海さんはもうおっきいのでサンタさんは来ませんよ」


ぎゃ。根に持たれていた。
にこりと笑った菊さんに、思わずやりかえされたとうなだれる。やった覚えは無いのだけれど、なんだか悔しい。


ごめんなさいと謝れば、そりゃもちろん許してもらえるのだけれど。


「欲しい物があるんですか?」

「あ、あの、私プレゼント用意してなくて」


言ってて自分のおろかさが身に滲みてきた。
ああ、恋人たちのクリスマス。プレゼント交換は絶対だろうに。

菊さんが事前にプレゼントを用意していなかったのがせめてもの幸いだ。


はあと思わず吐き出せば、菊さんがまたくすりと笑みを零す。
さっき彼がおっきいのでなんちゃらって言ってたのに、これじゃ子供扱いだ。


「私には春海さんが春海さんのままで居てくれることが何よりのプレゼントですよ」

「……ほんとに?」


本当です。返ってきた言葉が優しさだってことはわかっているが、その優しさが嬉しくて。
大好きだという気持ちを込めたつもりでまた手を握った。

握り替えされる暖かさが愛おしい。


「ずっとこのままがいいですね」

「……え?」

「二人でずっと、このままです」


何か意味ありげに言うもんだから、菊さんの名前を呼んだ。顔をのぞき込んで彼の黒い目を見る。

悲しいとか切ないという感情は無くて、ただ本当にそう思っただけらしく。
目が合えばふわりとまた笑った。


気付けば口から好きだとこぼれていて、菊さんも同じ言葉を返してきた。
ずっとこのままなら、なんて幸せなんだろう。
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