急がば回れ。…回りたくない時もある。

□師走を駆け
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頬になにかが当たった。

それは頬より少しだけ冷たくて、だけどいきなりの事に大げさに冷たいと呟いてしまう。

菊さんがびっくりした顔をしてから、同じ様に冷たいですねと自分の頬をさわっていた。


それからすぐにそれが何か理解して、また私たちは上を見る。
ちらりと、雲に見え隠れしながら落ちてきている雪が見えた。


「降りましたね」

「結構冷えるしね」


冷たい頬を未だにさすりながら、菊さんと雪を眺める。
ちらちら振るそれは、風に運ばれ踊っているように見えたりして。

綺麗だねと感嘆の声を漏らした。


「そろそろ帰りますか?」


確かに、そろそろ炬燵が恋しくなってきた。炬燵にはみかん。
小腹も空いてきた事だしと頷いた時、少し遠くからも雪への感嘆の声が聞こえた。

気になって目を向けると、さっきの子供たちが降り始めた雪を捕まえようとしている。
ほほえましいなぁと少しだけ眺めてから、菊さんに帰ろっかと言った時だった。


べしゃあ。中途半端な水の音に、頭に衝撃。
そしてすぐに、首筋に小さな氷の粒が入ってきたような鋭い冷たさ。

ひゃあと声がはじけて、一瞬なにが起こったのかわからなかった。


「春海さん大丈夫ですか!?」

「冷たい……」


後ろから、高い声ですいませんと言うのが聞こえた。
さっきの子供たち声だと言うのがわかって、多分自分は雪合戦かなにかに巻き込まれたのだと運の悪さを呪う。


見える菊さんの表情はひどく怒っているようで、いつも怒らない人だけにまずいと思った。
怒ってくれるのに悪い気はしないけど、やはり自分が怒ってないのだから菊さんも許してあげて欲しい。

今にも説教しに飛び出して行きそうな彼を、子供大好きだから大丈夫と意味不明の言葉で宥めようとした。


「貴方が言うなら仕方ありませんね……」

「面目ない……」


少し不服そうな菊さんに、ちゃんと払うからとベンチかどこかまで手を引かれる。
困ったように笑う菊さんに、私は面白おかしく笑ってごまかすのだった。

首の裏はとてつもなく冷たいけど、心はとても暖かかい。
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