急がば回れ。…回りたくない時もある。
□鏡越しの
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チャイムで急かされ続けた私にまともな準備をする余裕があるはずもなく、適当に整えた髪にこの前買ったばかりの服を着て。
玄関を開ければ強張った顔したアーサーが立っていた。彼は中にずかずか入ったかと思うと、私のお気に入りの鞄を勝手に持って玄関前に居たタクシーまで私を引っ張った。
そのまま近くの空港に連れて行かれたと思えばイギリス国旗の付いた自家用ジェットってやつに乗せられる。
この間、体感時間にて一時間ちょっとである。あてにはならない。
てんやわんやの中取りあえず必要なものだけでももてた自分ほんとすごい。褒めてあげたい。
スマートフォンはベッドに置きっぱなしにしてしまったけど、まあアーサーが居るんだから必要は無いだろう。
「飛んでる……」
ところで、このジェット機がどこへ向かっているかはさっぱりわからない。窓の外はだだっ広い地球が見えるだけ。
運転手かアーサーに聞こうと視線をずらすと、腕を組んでいたアーサーがこちらを見ていた。
エメラルドみたいな目に見つめられて、なれたと思ったのにどきりと心臓がなる。
「どこいくの?」
「行きゃわかる」
「日本に向かってるよ」
ふいに私たち以外の人の声が聞こえた。それが聞き覚えある物で、どこから聞こえたのかと首を回す。
運転席からちらりと見えたブロンドに、思わず嘘と力いっぱい叫んでしまった。
「嘘って何さ」
「なんでフランシスが……」
だって彼以外に人はいない。今は私たち三人だけ。
つまりアーサーがここに来るとき彼らが二人きりだったと言うことだ。
信じられんと呟くと、アーサーがうるせえと返した。
ちょっと恥ずかしかったみたいだ。そういう反応だったので顔をのぞき込んでみる。
今度はあからさまに目をそらした彼に、思わず笑いが抑えきれなかった。
にしても、なんで日本に行くのだろう。
そりゃ私は前から日本に憧れていたし、今もアーサーの反応抜きでにやにやできる自信がある。
ただ、アーサーの考えがわからなくて。
「坊ちゃんも人使い荒いよね」
「うるせえ髭。落とすぞ」
あらひどい。なんてフランシスが笑う。
珍しく殴り合いの喧嘩をしない二人がおもしろくて、私も混ざって笑っていた。
よくわからないけど、アーサーが笑ってるならなによりだ。