急がば回れ。…回りたくない時もある。

□魔物に乗る
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ここは高い塔の天辺にある部屋。
体の弱い私がせめて景色を目一杯に楽しめるようにと、数年前からここに暮らしている。

父様からもらったふかふかベッドに横になって、今日も窓を横目で眺めていた。

外に出たいとは思わない。
ただ、少しだけ人恋しかった。


今夜の月はどんな形だろうか。


ここしばらく誰とも話をしていなかった。
食事を運んでくるメイドは仕事に専念したいと言うように口を堅く結んでいるし、なにより人が来ない。


外の景色なんてとっくに見飽きていて。

まともに起きあがれる日もなかなかないから、見渡せるわけでもなく。
ベッドから見える空ばかりが私の景色。


つまらない。思わずつぶやきそうになったときだった。


「よっと」


窓枠に何かが見えた。
それが人の手だとわかったときには、手だけじゃなくその人全体が見えて。

それはお星様のようにきらめく銀髪を揺らした、一人の青年だった。


夕日の様に赤い瞳が、私を見る。
久々に見る人間らしい人間に、ベッドに横になったままどきりとした。


それよりもまず、不法侵入ってやつだ。

自分の身が危ないと声を出そうと試みても、出てきたのは情けないかすれた声。
今ほど自分の頼りない体がにくいと思った事はなかった。


「あんた誰」

「……お前喋れるんだな」


かすれた声をだした私になにか奇妙なモノでも見るように細めた目を向けた彼。
悔しさや恐怖よりももっと強い怒りがこみ上げて、私は出る限りの力を込めそれをにらむ。


窓枠に腰掛けたそれは私の部屋を見渡したと思えば、せめぇと言いやがった。

なんだこいつ。
体の自由さえきけば今すぐそこから突き落としてやるのに。起きあがろうとした体はやはりひどく重たい。

「ギルベルト」


不意に奴が意味不明の単語を呟いた。
なにかの呪文かと首を傾げれば、な・ま・えと付け足される。なまえ、名前。


「特別に俺様をギルと呼ばせてやる」

「はぁ? 何言ってるのあんた」


ふふんと鼻で息を出しながら足を組んだギルとやらは、やたら偉そうに笑って。
やっぱり突き落とせないだろうかと眉を顰めた。


それから彼は半刻ほどそこで私と話していたかと思うと、来たときと同じように窓から消えていった。
何をしにきたかはわからないが、疲れて今夜はぐっすり眠れそうだ。
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