急がば回れ。…回りたくない時もある。

□魔物に乗る
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今夜は月が出なさそうだった。どんより曇った空は今にも何かを落としそうで、部屋の空気をも変えていく。

だが反対に私の体は調子が良く、少し頑張れば起きあがれそうだった。
そうだ頑張ろうと体を起こしてみようとしたとき。


昨日と同じ声が聞こえる。


「よお!」

「呼んだ覚えはないんだけど」


また昨日と同じ所に手が見えて、ひょっこりと銀髪がのぞく。
反射する光がない銀髪は色褪せて今日の雲の様だった。

帰れと言葉をぶつけてもやつには届かず、また昨日のように窓枠に腰掛ける。
起こそうと体にいれた力も抜けて、私はため息をこぼした。


「嫌そうな顔するなよ」


そりゃするだろ。吐き出すように言うのは、昨日の数十分で人の話を聞かない事をよく理解していたから。

聞こえるようにため息をついて、ベッドの上で寝返りを打つ。
背中に突然、ほれとなにかぶつけられた。


「なにすんの」

「プレゼント」


はあ? やっぱり成立しない会話に苛立ちながら背中を探ると、手に当たったのはなにか小さなモノ。
弄って手につかめば、握っても拳の大きさが変わらないほど小さかった。

腕を前に回して広げてみると、それは小さなチャームが付いたネックレスで。
また睨むように体を回し目線を動かせば、によによした赤目と目があった。


「明日はクリスマスだからな」

「知るか」

「サンタより格好いい俺様からのプレゼントだ」


さっぱり意味がわからない。

ただ手の中にあるネックレスは投げ返すには可愛らしくて、仕様がないから首につけた。
鏡があったらみるのだが、生憎この部屋にそれは存在しない。


赤目が細められる。
似合ってんじゃねえかと口角を上げた口が言った。


「そういや、魔物って知ってるか」

「まあ一応」

「あんたそれの生け贄なんだぜ」


…………知ってる。

突飛に始められた会話に、またため息が出そうになった。あーあ、なにか膨らみかけていた気持ちが萎んでいく。


相変わらず笑ったままの男に昨日と変わらない苛立ちが湧いた。
しかしそれすらもあっという間にしぼんで。

今更なんだよ。
ぐったりとした疲れが押し寄せて来たような気がした。


「俺には知ったこっちゃねえけどな」

「帰って」


二度とくんなハゲ。
そう言うだけ言って、私は寝るつもりで目を閉じる。

頭になにか感触があったが、それが夢なのか現なのかはわからない。
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