急がば回れ。…回りたくない時もある。

□魔物に乗る
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夢を見た。久々に内容をうっすらと覚えている。

あの銀髪野郎が魔物に食べられるという、なんとも寝覚めが悪いものだった。


目を覚ました部屋の中はもう夕日で染められていて、もうすぐ夜が暮れる事を知らせている。

夜が来たら、あいつが来るのだろう。夢で魔物に食べられた銀髪のあの男。


今日はなにを話すのだろう。
なんて思ってしまう私はどこかおかしくなってしまったんだろうか。


首もとにつけたままのネックレスをちらちらいじってみる。ヒモが長いので顔の前にやればチャームが見えた。
銀色の細工に真っ赤な宝石。夕日よりも赤いそれは、あの男の目によく似ている。

まるでこれをつける事で、私はやつのモノになってしまったようだった。
どうせ、そんなの気を紛らわせる事にしかならないのに。


にしても、今日はなかなか来ない。

夕日が沈んだ世界はあっという間に暗くなっていく。
月明かりが来るまでは、なにも見ることができない。


寂しいと呟きそうになってあわてて飲み込んだ。
今まで、そう思いはしても言ったことはない。

今日ももちろん、口を噤んだ。


「来ないのかな」


うん、それはいいことだ。
あんな変な男より無口なメイドの方がずっといい。気が楽だもの。

もしかしたら魔物に食べられたのかもしれない。
それならもう二度とこれやしないだろう。


そこまで考えてから、今日も起きあがれるだろうかと体に力を入れる。
もう少しで体があがりそうだった。


「よう、なにしてんだ」

「帰れ」


また声がして、いつものクダリで奴が入ってきた。
三度めともなれば音と声だけでわかるようになって。そんな自分に嫌になりながらも、体はそっちに向ける。

にやりといつもの笑いがこっちをみた。


「んだよ、会えるのは今日限りかも知れねーんだぞ?」

「なに言ってんの」

「魔物を倒してきてやるよ」


じゃあちょっとジュース買ってくるよと言わんばかりの気楽さで男は言う。
思わずバカじゃないのと本音が包み隠れず漏れた。

それでも奴は変わらず、任せろよと胸をはる。なにがどうなってそうなったのかさっぱりわからない。


「だからてめーも早く元気になれよ」

「風邪じゃねえんだぞ」


頭を抑えないとどうにかなってしまいそうな気がした。
どうしてこいつはここまで意味のわからない事をしてくるのだろう。

自然に落ちればいいのに。月の光が差し込み始めた窓を見ながら思った。
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