急がば回れ。…回りたくない時もある。
□折紙の婚約指輪
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珍しい事がおこりました。
アーサー君が女の子以外に先を譲ってあげたのです。
彼は紳士だからと女の子にとても優しい子でした。ただ男の子にはいつも厳しく、フランシスとはいつも喧嘩になっています。
そのアーサー君が、ギルベルト君に優しくしたのです。
思わぬ成長に抱き締めて褒めたくなりますが、そこは我慢しなければなりません。
私はみんなの先生。一人だっこするならみんなだっこしなければならないのです。
それが出来ないならしてはいけない。
譲ったの、えらいねと笑って言うだけでなんとか抑えれば、それでもアーサー君は嬉しそうに笑いました。
「なあ春海」
さて、もうそろそろ喋ってくれるだろうかとギルベルト君に目を移します。
彼はすっかり照れがなくなったのか、突然大きな声で話だしました。
なにを教えてくれるのか、私はいつもこの瞬間が大好きなのです。
「おれさま、春海にこれやる」
「……くれるの?」
ちょっと言葉は乱暴でしたが、してくれる事はいつも優しいのでお咎めはしません。
そんなギルベルト君は紅葉みたいに小さな手を私につきだし、中に何かを握っているようです。
彼が何かを見せびらかしてくれるのはいつもの事ですが、くれると言ったのは初めてでした。
思わず目を丸くして驚いてしまいます。
おおおと感動してからそれを丁寧に受け取ると、それは黄色の折り紙で作られた何か。
少し見てから、それがギルベルト君がおうちで飼っているぴよちゃんという小鳥に似ている事に気付きました。
可愛いと口からこぼれるように言うと、ギルベルト君はより一層うれしそうな顔をしてだろ! と言います。
ギルベルト君は案外かわいいものが好きで、女の子が大好きなぬいぐるみも大好きです。
ですから彼がくれたそれに可愛いと言って怒られないのは不思議ではありませんでした。
自慢げに胸をはる姿が、またギルベルト君が大きくなったように感じます。
彼も人にプレゼント出来るようになったんだ。これは連絡帳に書かないと。
「ぴよちゃんだぜ!」
「ありがとう」
とっても嬉しい。
お世辞なんかではなく心からそう言うと、ギルベルト君はさらにうれしそうな顔になりました。
ふふとつられて笑うと、ぽんぽんと腕をたたかれます。
お次はアーサー君の順番です。どうやら彼も何か持って居るようでした。