急がば回れ。…回りたくない時もある。

□ばばろあがーる
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ぱちぱちと暖炉の火が燃えている。じっと見ていれば炎がなにかの形に見えたりとか、そう言うことはないようだった。
視線をスライドして見たソファーに掛けられているカバーは、最近マシューが作ったパッチワーク。

今日の為に作ったんだと笑った彼はとても愛らしかった。
クッションにもお揃いのカバーが掛けられていて、私はぎゅうとそれを抱きしめる。家に使った木の匂いとマシューの香り。鼻だけじゃなく心も擽られた。


窓には私が日本から送った、窓ガラスに貼りつけられる飾りがついている。
片手を伸ばして指先でつつけば、ぶにゅりと堅いゼリーかグミの様に私の指を押し返した。


「あ、ババロア食べたいかも」


突然ゼリーじゃなくムースでもない、あんな微妙な食感が恋しくなって。
私は指を押し返す窓の飾りをいじり遊んでいた。

半透明の飾りから透けるカナダの景色には、真っ白なクリームのように雪が積もっていた。
じっと目を凝らせばトナカイが居そうな程幻想的な雪景色。顔を近付け過ぎたのか、窓が息で曇る。


せっかくの風景が曇ったが、それより良いことを思いついて人差し指を伸ばした。
吐きかけた息で付いた小さな水玉たち。それらに指先で線を引いていけば。

三角と棒をつなげ、私の名前とマシューの名前を書いたところで、背後の扉が開いた。


「なにしてるの?」

「相合いクリスマスツリー」


窓の飾りがちょうどツリーの飾りのようになって。立派なもみの木の下には私たちの名前が並んでいた。

まさに、相合いツリー。


予想以上の出来映えににやり口角を上げていると、マシューがトレイにコーヒーを持ってき来ていた。
カップの隣には当たり前のようにメイプルが添えられていて、それが大好物の私はすぐさまそれに手を伸ばす。


「こら、行儀悪いよ」


クッションを抱えたままカップに伸ばした手に、言葉が当てられる。
もう少しで手が届くというところで、トレイがゆっくりと移動し始めた。

急いで手を伸ばせば間に合うが、それをすると口を聞いてもらえなくなるので我慢。
しょうがなくテーブルまでついて行き、定位置になったイスへと座った。先に動き出したはずのマシューが次いで隣に腰を下ろす。


前に出されたコーヒーは湯気を漂わせ、早く飲んでと主張していた。
頂きますと手を合わせれば、落ち着いたいつもの声が返ってくる。まぁ、その前に飲んじゃってるんだけど。
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