急がば回れ。…回りたくない時もある。

□ばばろあがーる
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まったくもう。私の下にいるマシューが唸る。
それでも尚私はマシューの背中に回した手をギュウギュウと締め付け、顔を胸にこすりつけた。

私たちと一緒に倒れたイスが私の太ももに落ちたのは痛かったけど、正直それもどうでもいい。


「喜んでもらえて良かったよ」

「うん、すっごく嬉しい」


じゃあそろそろ離れようよ。いつもならそんな感じにここら辺で離される。
マシューは照れ屋さんだから、あまり長いスキンシップはさせてくれない。アメリカの隣にいるくせに。

でも照れ屋さんなマシューがこれまた可愛いんだなほんと。


「マシューお嫁さんにきてよ」


そう言って更に腕に力を込めた。
頭の上でマシューが驚く声がする。ええっだって。可愛い。

せめて肩を押し返される間でくっついていよう。
ぎゅうとまた彼の服の背中をつかんだ。


なのに、マシューの手が私の背中から動かない。


「春海と毎日一緒ならきっととっても楽しいね」


そりゃもちろんそうに決まってる。
私はマシューを喜ばせたいし、マシューは私を笑顔にしてくれるんだから。

私の背中にある腕が、ぎゅうと私を締め付けた。


「でもさ」


でもなんだろう。
返事もせずにじっと待つ。何か言いたいのだろうか、長いのか短いのか微妙な間が私たちの間に流れた。


ねぇ。ついにマシューが口を開く。
それと同時に体も離されて、遠くなった暖かみに寂しくなった。


「それ、開けてみて」


彼が言うそれは、さっきマシューからもらった小さなポーチ。
開けてと言うのだから、中に何か入っているのだろう。

あまりにもマシューが真剣な声で言うものだから、彼がどんな表情をしているかも確認せずにそれを開けた。
ぷちりとボタンを外し、中をのぞく。


「え?」


中から顔を見せたのは、金属の固まりだった。
私が知る中でこれは、所謂鍵と言うもので。どこのと聞かれれば、マシューがくれるのだからそりゃ決まっている。

がばりと髪が乱れるほどに勢いをつけて顔を上げれば、にっこりと目を細めたマシューがそこにいた。
それが少し見えたと思えば、ゆっくりと近づいてフェードアウト。耳に熱い息が掛かる。


「え? え?」

「僕は春海にお嫁さんになってほしいんだ」


ぺろり。私が何かを言う前に、耳の次に唇を舐められて。
散々顔を赤くしたマシューは平然と笑っているのに、私ばかり平静を取り乱しているのでした。




》あとがき
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