急がば回れ。…回りたくない時もある。
□月が綺麗ですね
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町の景観を崩さないよう、木の中にこっそりつけられたスピーカーから流れるミュージック。
ベルの音がリズムをとって、私たちもそれにあわせ足を進めた。
鈴のように聞こえるベルは、目をつぶればちらりちらりと降る雪を連想させる。
ジングルベル。ジングルベル。
鈴が鳴る街道を、私とルートは並んで歩いていた。
「もうすっかりクリスマスだね」
「そうだな」
人一人分の幅が開いた先のルートはこんなに寒いというのに、マフラーも手袋もしていない。
良く筋肉の付いた首筋が冬風に晒されていて、見ているこっちが寒かった。私は去年買ったチェックのマフラーに一層顔を埋める。
寒くないの。どうせ寒くないんだろう。
そのカッチカチの筋肉がきっと体温を守っているんだ。
聞かなくてもわかる質問をしようかどうか迷っているうちに、ルートと目があった。
「少し休んでいかないか?」
「……うん」
すぐそこに良い喫茶店があるんだ。そう付け足したルートの少し後ろを歩く。
先週買ったばかりのブーツに付いた、高いヒールがコンクリートを楽器に変えた。
ルートがならすゆっくりな足音に、私が急ぐ音が重なる。
マフラーからはみ出した髪の毛が空で踊るのを見ながら、これはマフラー外したとき大変だぞとため息を吐いた。
静電気は大嫌いだ。
「すまない、早かったか」
「あ、え、いや!」
突然立ち止まったルートに少し遅れて私が隣に到着する。
見上げた彼の表情は少し困ったような、眉尻が下がっていた。
迷惑だったかもしれない。ヒールの音、煩かっただろうか。
やっぱり底が厚くないブーツにしてくるべきだったんだ。
ああもう自己嫌悪。
私が見上げるのと同じ様に顔を下げるルートを見返した。
怒ってないか目から察してみようと、じっと彼をのぞき込む。少し細くなったかと思えば、ふいと逸らされた。
「転ぶなよ」
「わかってるよ」
そう返すとルートはまた足を前に出す。
さっきよりもリズムが遅くて、スピーカーの音楽と微妙にずれた。
それと反対に、私とルートのずれた距離は縮まる。