急がば回れ。…回りたくない時もある。
□来世への誓い
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すとん。風に乗って降りてきた紙飛行機が、乾いた野原に落ちる。
他の誰がそれを拾おうとしている訳でもないが、軽い足取りでそこまで急ぐ。
慣れたようにかがんで拾って、俯いたままその場を離れる。
へたくそな折り方にしては力強い折り跡を見ながら、近くのベンチでそれを眺めた。
風に浚われない様しっかり掴みながら、優しく開いた。
今回で三十二通目の春海からの手紙。
今回の返事はどんな話をしようか。昨日の話のウケはどうだっただろうかと思いながら、丸っこい文字を読んでいく。
ああ、どうして俺はこんなことをしているのだろう。
こんにちは。昨日もお手紙ありがとうございます。
前回の土産話を気に入ってもらえた様で光栄です。できることなら貴女にもあの凛とした冷たい空気を、目の前に広がる優しい景色を感じて欲しいと筆をとりました。
そこまで気に入っていただけるなら、写真の一枚でも同封出来れば良かったですね。
もし迷惑じゃなければ次の手紙にとびきりの写真を入れますがどうでしょう? きっと気に入ると思うのですが。
そうそう。今回の手紙は、これで三十三通目です。
我が家には十六通、貴女には十七通目が今手元に在るかと思います。
余談になりますが此方もちゃんと保管してますよ。
幼友達、不器用なのに趣味は随分器用な奴ですね。春海さんの話では乱暴な男に聞こえますが、貴女が傷付けられていないかが心配です。
そうだ。貴女がそんなに仰るので、いつもの彼女に少しだけお願いをしておきます。
かの有名な足長おじさんのように、シルエットだけ言うように頼みました。貴女が聞きたければ、どうぞ訊ねてください。
お会いしたい気持ちは解りますが、手紙でならば会話するより形が残るでしょう?
貴女がいつか話した事を忘れてしまいそうになっても、きっとこの手紙が教えてくれます。だから、どうか会いたいとは言わないで。
また空からの手紙が来るのを心待ちにしています。
金髪の足長おじさんより。
くるりとペンを回す。
インクのふたを閉めて、封筒を引き出しから取り出した。
机の端に乗せた写真を見て、それを違う引き出しに押し込んだ。
「俺の方だよ。ばか」