短編

□鉢巻きになりたくて
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「おはよう真田君」


語尾にハートが二つに星三つ付きそうな程黄色い声で、私はあれから四回目の朝の挨拶をする。
毎度毎度お早う御座いますると返してくれる真田君が非常に愛らしくて、今日も素敵だねと付け加えた。


はぁと私に聞こえるようにため息を吐いた真田君。彼は今日から六日前、悪漢に襲われた私を王子様のように助けてくれたのだ。
颯爽と、華麗に、優雅に、猛々しく、そしてなんと言っても爽やかに。あ、爽やか二回目。


もうすっかりそれに惚れ込んでしまった私。一目惚れと言う言葉は嫌いだが、そうなのだ。
別にピンチに助けてくれた人だからではない。遅かれ早かれ、私は絶対彼を好きになっていたはずだ。


あの日の翌日から真田君を調べに調べ、同じ学年隣のクラス、入部している部活動に登校時間を知った。
知ったら行動。偶然を装い登校時間をずらし、部活動を見て応援して差し入れして、隣のクラスに頻繁に出入りするようになった。

ちなみに私の家は少しばかり遠くにある。私は早起きになり部活動もないのに遅く帰り遅寝し隣のクラスに同じ出身校の人を発見した。


「もう破廉恥と言う気も失せまする」

「真田君、好きな女の子のタイプは?」

「破廉恥で御座る消えて下され」


ばきゅーん。そんな音と共に私の心臓が射抜かれる。
真剣な顔をこんな間近で見たら誰だってこうなるに違いない。堪らん……!


本当は携帯で写真でも撮れたら何も言うことなしだが、そうしようとしたら猿飛君が邪魔するのだ。
ささっと現れ私の携帯を取り上げて、大きく振りかぶる。それを慌てふためき返してもらうが、その間に真田君が消える。

何度そういう事態に陥ったかわからない。
そして消えた真田君にショックを受けているうちに、猿飛君は来たときと同じようにささっと消える。文句の一つも聞いてくれない。


「今日も部活?」

「答えずとも存じてるのでは?」


まあそうだけどね! でも貴方と会話したいからだよ。とは言わないけれど。
恥ずかしいからね。

私は鞄を自分の教室に置くこともしないで隣の教室に入り込む。ドアを潜るときが、何気に一番近い距離になる一瞬だったりする。
ちょっと近くに寄れば、真田君からふんわりと洗剤の香りがした。天使か。


「教室に戻られよ」

「もうちょっとだけお願い!」

「消えて下され」


あふん! 今日は一段と冷たいのね真田君。
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