能ある鷹は愛する獲物の為に爪を斬る

□シャングリラでの紅茶タイム
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まったく面倒な事になった。


「私はただ仕事をさぼっ……昼寝をしてただけなのだが」

「今なんか違うこと言いそうにならなかった?」

「い、言ってないぞ」


なかなかお茶目な人らしい。
見かけによらず可愛い一面だ。

しかしいつまでも彼女と話しているわけにもいかない。
ここに来てどれだけたったのかはわからないが。
あたしの眠気が遠いどこかにある間やらねばならないことがあるのだ。



本日なんと、驚くことに、まさか信じられないことに〆切である。
まあ神原が取りに来るだけだし良いような気もするけど。


「あれ、何ですかその紙」


ひらひら一枚。
白い紙に小さな文字で。

あたしの背中にも多分こう張ってあったんであろう紙切れがラスティーさんの背中に存在していた。


え? と聞き返される前に紙切れを掴み剥がす。
セロハンテープが付いた紙があたしの手の中で主張した。


ひらひらしたその紙は折り目一つなく気を抜いたら指を切ってしまいそうで怖かった。
紙で指を切るとやけに痛いよな。なんて。

やたら大きいA4ぐらいのもはや紙切れとは言い難い紙と見つめあう。
真ん中には紙の大きさと反比例した一文字1センチ未満の綺麗な文字が。


「脱出せよ」

「……ほぉう?」


挑発的な言葉にいち早く反応したのはラスティーさんだった。
なるほど段々彼女の性格がわかってきた。

多分神原を与えたりすると生き生きするタイプだ。


「脱出せよ、と言うのはこの教室からか? 学校からか?」

「まず出れる所まで行こう」


お互い相手の背中にあった紙を握りながら、ラスティーさんが前、あたしが後ろでまず教室を出ようとした。

がつり、と堅い音。
む、とラスティーさんが唸る。


どうやら教室から出ることが出来ないらしい。

扉は開いている。
しかし透明ななにかが廊下との間を妨げているのだ。

確かめるようにつま先でガツンガツンと確認するラスティーさん。
靴と空気がぶつかって、あたしが見る分にはなんとも不思議な光景になった。

それでも音だけ聞けばただ靴で壁を蹴っているだけの様にも聞こえる。
決してガラスがあるわけではない、教室の壁独特な板と板との空洞。



脱出せよ、と言うのは教室からと言うわけか。
はたまた教室、学校、さらには学校の敷地から脱出しろと言う段階を経たなければならないのか。


ううむ、とまたラスティーさんが唸った。
ふぅ、と小さいため息を吐いた。
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