能ある鷹は愛する獲物の為に爪を斬る

□冬景色
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さて。
ずっと喋っている若いのをまた探す。

どうやら隣は自分より年下そうな女の子みたいだ。
いったい何の会議なんだろう。年齢層幅広いな。


そしてまた、どこに居るかな。そう思って首を動かした時。


「反対意見は認めないぞ!」


これまた一際大きい声が俺の鼓膜を揺らした。そこでやっと見つける。

ホワイトボードの前に立ち水性ペンを持った、自信に満ちた顔の若い金髪頭。

楽しそうだなーと嫌味半分で思う反面、彼を絶対下にして働きたくないと確信した。
だって、俺の立場とかなくなりそうだし。尻拭いとか正直面倒くさい。


「俺は絶対に関わりたくないタイプだな」


小さくぼそりと呟いた。筈だった。
誰にも聞かせるつもりのない独り言だったのに。


隣の席からガタリと机の揺れが伝わって、小さな声が漏れた。

それが俺の言葉のすぐあとだったから、俺の呟きを聞いたその人のリアクションなんだと思う。
さっきちらりと横顔を見た、若い女の子の反応。


やばい、反感でも買ってしまっただろうか。
困った、金髪頭の上司の人とかだったらどうしよう。

そうだ。とりあえず謝ろう。


「すいません、悪気は無いんです」

「あ、いえ」


小声でこっそりと謝ったら、苦笑いをして返された。
声を聞いても若い。さすがに真琴さん並みの童顔とかじゃ片付かない。


にしても、困った様に彼女が笑った所を見ると。金髪の上司である線は薄そうだ。
それでも、また金髪に顔を向けた彼女の表情はとても真剣というか。思い悩んだようで。

うーん、深い。


もはや何を議題にしているかわからない彼の話を流して聞きながら、横目で彼女を観察する。

一心に見つめているのは金髪なのは確実で。
恋してんのかな、と思ったりしたがそんなに幸せそうじゃないんだ。


恋する女性は、第三者から見たって楽しそうで、幸せそうで、腹立つものだ。
だけど彼女はどこか悲しそうな、そんな表情。

恋じゃないなら、なんだろう。


そう思ったりした時。奴なら言うと思った言葉がぽっと出た。
「恋じゃないなら、愛」
ほほう、それならありじゃないだろうか。
悲恋でもしてるのだろうか。思うだけの恋を、捧げるだけの愛を持っているのなら、ありだ。


もうすっかり顔が彼女に向いているが、気付かれないだろう。愛だし。
なんて余裕こいていたら、彼女の隣……つまり俺からみて彼女の奥に座っていた青年と目があった。

若い青年は黒い瞳を大きく開いて驚いていた。まるで予想外だとでも言うように。
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