能ある鷹は愛する獲物の為に爪を斬る

□風車様より、ひまつぶし。50000hit記念小説!
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ある昼過ぎ、2時半頃。
いつもは喫茶店で打ち合わせを済ませる神原さんが、今日は車に乗るよう指示してきた。


話によると担当しているもう1人の作家さんの原稿を急かしに行くらしい。

ついでに様子も見てくるとか。


「真琴さんも君みたいにはやく原稿提出してくれたら楽なんだけどな」


小さく呟かれた言葉に他人事のように神原さんって意外と大変なんだな、と思った。







車で揺られること30分くらい。

決して高級そうには見えないけど、綺麗でかっこいいマンションの前に私達は止まった。

神原さんが私に聞く。

「僕は行ってくるけど、君はどうする?」

きっと異常に人の目を気にする私を気遣ってくれたのだろう。


私はもう1人の作家さんにはあまり会いたくなかったけどよく知らない場所で1人で待つのも気が引けて一緒に行くことにした。







1つの扉の前で佇む私達。
今思えば勝手に個人情報を知るような真似をしてしまったが良いのだろうか。

急に申し訳なくなってきた。

「あの、やっぱり戻っても良いですか?」

思わず神原さんに聞くと本当に訳が分からないというようなキョトンとした顔で見られた。

「どうして?」

ストレートに聞いてくる。
この人のこういう素直さは嫌いじゃないけど、苦手だ。

「え………っと、勝手に見ず知らずの人間に個人情報を知られるのって嫌じゃないですか?」

言葉を選んでいうと神原さんは「なぁんだそんなこと」と笑い飛ばした。


そんなこと!?
そ……そんなこと!!?


「そ……んなこと、ですか!?」


思わず声を張り上げると神原さんは独特のへらりとした顔で言葉を紡ぐ。


「本当に君は変なことを気にするね。大丈夫。会えば解るよ」


そうしておもむろにインターホンを鳴らす。

数秒遅れて入っていいよーとしっかりした女性らしい声が響いてきた。

私の心臓の機能がこれでもかと働き始める。
緊張で爆発しそうな心臓の音は耳元で聞こえる。


ドアを開けた神原さんが少しだけこっちを向いて微笑んだ。


「今日は可愛い後輩を連れてきましたよ」


良く通る声で言われた言葉。
緊張は最高潮に達した。


「は………はじめまして」


もそもそと言いながら1歩部屋に踏み込んだ、その時。



目の前の神原さんが、消えた。



直後に響く鈍い打撲音。
さっと目をやれば床に倒れ伏す神原さん。

驚いて目を離せずにいると新しく目の前に現れた人影。


勢いよく視線を移せばそこにいたのは美人の女の人だった。


目と目が合う。
時が、止まる。


私が何か言わなければ、と思った瞬間に彼女は動いた。


ずいっと顔を近付けてぺらぺらと喋りだす。


「漆黒の髪に冬の夜空みたいな瞳。それと対照的に透けるような白い肌は雪のようで………」


一言も噛むことなく未だにしゃべり続ける女性。
目がイってしまっていると思うのは私だけだろうか。
あまりの混乱に目を離せないでいると後ろからかけられた神原さんの声。


「……あ、あの………まひわちゃん、怖がってます…………」


途切れ途切れのその言葉にふと我に返ったように私を見つめてくる女性。


がちがちの首で「どうも」と言いながら少しだけ会釈すると女性は身を引いて謝ってきた。


「あ、ご、ごめんね。つい、癖で」


癖!?

それでも私が動けずにいると女性は手を出して握手を求めてくれた。


「初めまして。私は如月真琴。よろしくね?」


悩みに悩んだ挙句そっと手を伸ばしたのはいろんなひとのおかげなのだろう。











新しい出会い

(初めまして、風花です。……………本名は………)



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