能ある鷹は愛する獲物の為に爪を斬る
□ラベンダー畑でつかまえて
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鐘が鳴る。四時半を知らせる鐘だ。
俺は落ちそうになる腕章を付け直し、また走り出す。廊下を歩く連中が訝しげな目で俺を見たが、腕章を見ただけで表情は変わる。
風紀委員と書かれた腕章を着けるだけで廊下を走る罪を見逃して貰えるのだから、世の中は大抵甘い。
そして自分が頑張りさえすれば、なんとなく思った通りにいくのだ。
……ただし、それはあの人を除いての話。
「どこ行ったあの女」
目に入りそうになる長い前髪を避けながら、俺は彼女の姿に目をこらす。
こらせどこらせど見つかる事は無い。今入った教室もはずれだった。
教室に居た華凜がこっちを見てきたが、すぐ興味がないと言うように逸らされる。
だがしかしそれにめげては居られないので、俺は中に入った。
「ねぇ華凜」
「知らないわ」
質問する前に返された。最早とっくに生徒に知れ渡った話だったらしい。
大したあてにして無かったとはいえ、即答されると身に応える。
華凜の前に座っていた赤マフラーに目を付けた。
どうやら二人で勉強していたらしく、シャーペンをくるくる回す彼と目を合わせる。
「りょうへい君、どうしたんですか」
「うん、俺りゅうへいだからね」
「ボンバル風情が細かい事気にするのね」
「ボンバルって言うな!」
もういい加減この茶番劇も禁止するべきだろう。
ボンバルが浸透し過ぎて、俺本当に改名させられちゃうんじゃ無かろうか。
肩が動くほどの大きなため息を吐いて、俺は気持ちを切り替える。
「レオン、あのさ」
「知りません」
なんだよお前等仲良しか。なに二人揃って同じ様に返してくるんだよ。
ジト目で彼を見ていると、彼はふわふわな白い髪をいじりながら目を逸らす。
あれ、と首を傾げた。
がしりと彼の肩をつかみこちらを向かせる。
体はこっちを向いたが、目はどこかを泳いでいた。
「知ってるんでしょ」
「……知りません」
「俺の目見て」
「……言っちゃだめって言われてますもん」
口止めされているらしい。
そんな彼の頬をむにむにと両手で包めば、ぐぇとレオンから変な声が漏れた。
言ったら真琴さんから良いものあるよと適当な事を言う。バレたら怒られるだろうけど、それは俺の知らんこっちゃない。
「良いことって何ですか?」
「真琴さんのマックおごり」
にやりと笑いながらそう言えば、レオンはキラキラと目を輝かせて口を開いた。