能ある鷹は愛する獲物の為に爪を斬る
□ラベンダー畑でつかまえて
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ガチャリとそこへと向かう扉を開ける。せっかく鍵を付けても内側から開けられるんじゃ、鍵の意味がない。
どうせ外から入ってくる不法侵入者の対策なんだろうけど、そんなん来るわけがない。
鍵が閉まってなかったと言うことは、レオンが言っていたことは正しかったのだろう。
肌に感じた外の空気に、思わず息を吐き出した。
「さて」
後ろ手で扉を閉めながら、そこを見回す。
綺麗とは言い難い屋上。フェンスは一応あるが、ここは立ち入り禁止である。
まぁ、入ること事態は簡単に出来るのだけれど。
はっと見扉付近から見える所に奴の姿は見えない。
なら反対側かと、いきり立った俺は足を進める。上靴のゴムが砂利を踏んで聞き慣れない音がした。
扉がある反対側の壁。プレハブ程度の大きさをした建物の様な障害物を回ってすぐ。
壁に寄りかかる奴がいた。
長い茶髪の髪。短いスカート。淡い紫に塗られた爪。
寝ているのか目は閉じられている。
髪の隙間から見える耳にはイヤホンが装着されていた。
「おいお前」
微かな音漏れをしているそれを両手で引っこ抜く。
よっぽど驚いたのか彼女が両目をまん丸になるまで見開いた。
「……なんだ、神原か」
「なんだじゃない」
引き抜いたイヤホンにつながったミュージックプレイヤーの電源を切り、自身のポケットにしまう。
彼女は眉根を寄せたが、没収と腕章を見せつけて言えばため息で返事した。
「トルシェさん、ここはどこかわかりますか?」
「遂に呆けが始まったのか?」
言い終わる前にトルシェさんの両頬を片手でつかむ。寄せられた頬に彼女の唇がアヒルのようになるが、まあアヒル口って流行ってるらしいからいいだろう。
ぐりぐりと力を入れてやれば、トルシェさんは観念したように屋上と呟いた。
「屋上はどんなとこ?」
「広くてかいてき……」
頬の肉越しに歯の感覚をなぞる。
むげむげと変な声が漏れたが、気にしないで正しい回答を待つ。
「立ち入り禁止区域、でし」
「よくできました」
自分でもわかるほど作った営業スマイルと共に手の力を抜く。
いつもなら女子にこんな事すれば真琴のあんちきしょうが黙ってないが、ここは屋上。誰かに見られるはずがない。
「何しに来たんだ」
「あんたを探したんです」
ご苦労なこって。鼻で笑いながら彼女はそう言った。