犬も歩けば棒に当たる。…私は何に当たる?

□気付けば誰よりも好きでした
1ページ/5ページ



学園内を絵を描くための道具を持ちながらぶらついている。
正直、早くうちに帰りたい。

なのになんで帰らないかというと、美術部の部活動があるからだ。


人物画を描くという。


「あーあ、なんで人物画かなぁ・・・・・・」


もともと私が得意なのはイラスト系の絵で、こう・・・・・・なんというかリアルに描くのは苦手なのだ。

・・・・・・筋肉なら描けるけど。


溜息をつきながら誰かモデルになってくれる人を探す。
今日は美術部員全員が校内でモデルを探している。
同じ学校の生徒をモデルに人物画を描こう!という、私にとっては避けたいことこの上ない毎年恒例のこの活動。


3年生の先輩方はもう既にモデルを見つけて描き始めているのを見た。
私と同じ2年生や1年生はまだモデルを探しているのか、たまにすれ違う。

その時はお互いに苦笑いをして手を振る。声を掛けて話をする時間すら惜しい状態なのだ。


私だって去年は早く見つけたのに。今年はついてないのだろうか。


ついでに付け足すならば、美術部員同士はモデルにならない、というのが暗黙の了解で。
さらに期限が今週中までと決まっている。


「もうやだ・・・・・・」


早くうちに帰ってゆっくりしたい。


盛大な溜息をついて教室で残っている人は居ないかと自分の教室の扉を開けた。
中には2人の男子が居た。1人は話したことの無い男子と、もう1人。

その1人の男子は私の幼馴染、というか家が近くて、仲の良いトニーだったわけだが。
ああ。今日は本当についてない。


「なんや春海、そんな道具持ってなにしてん?」

「トニーか・・・・・・実は、いや、なんでもない。」


これがトニーじゃなければ是非モデルにしたのに!心の中でまた溜息。
実は彼には去年モデルをやって貰っていた。

別に去年と同じ人でも構わないとは聞いてるのだが。


「なんや、もしかして去年のあれか?」

「モデルの奴ね・・・・・・。」


私の持っている道具と、モデル探しをしていた美術部を見かけて私が何をしているのか気付いたようで。
もう決まったん?と首をかしげ聞いてくる。
苦笑いしながら首を横に振れば、なんや大変そやなぁと気を使って飴をくれた。ありがたい。

そしていらない事をきらきらとした笑顔で付け足した。


「せやったら親分が「遠慮します」

「なんでやねん!」

「トニー去年描きあがった私の絵に落書きしたじゃんか!」

「あれは俺がもっと芸術的にしたろとしただけやん!」


そう、彼はあろうことか去年の私の絵に彼曰く、芸術・・・・・・という名のただの落書きを付け足した。
ただの、じゃないな。こう・・・・・・芸術は爆発だ、と言わんばかりの夢に出そうな落書きだったのだ。


それはそれは迷惑なこと他ならなかった。

だから私は去年の二の舞を危惧してこいつにだけは声を掛けたくなかったんだよ。
あの後あの絵を出すわけにもいかず、泣きながら元の絵を移した私の苦労を知らないだろうお前!


「なら俺なんてどう?」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ