犬も歩けば棒に当たる。…私は何に当たる?
□数年前から一目惚れでした
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あー、今日は雨だぜ。
こんな日は家に帰ってビールだよな!ビール!
ヴェストと一緒に今日も一杯やるか。
なんて1人で口に出して言いながら俺は家路を歩く。
今日のドイツは雨でいつもより少し肌寒く感じる。雨と言っても小雨程度の弱い雨だが。
早く帰ってビールを飲んで体を温めたい。
ならば家に居るであろうヴェストに電話しようと携帯電話を出したところで、奴は今日イタちゃんの家に居ることを思い出した。
せっかく一緒にビールを飲もうと思ったのによ。
ひ、1人楽しすぎるぜ・・・・・・!
「いってえ!!」
はぁ、と溜息を付いた次の瞬間に水で足を滑らせ、顔から地面にダイブすることになった。
体は一瞬で水浸しになり、傘を手放した所為で雨が俺に降り注ぐ。
な、泣いてなんかいないぜ!
雨が目に入っただけだ・・・・・・チクショウ!
「ちっくしょー、冷てぇ・・・・・・」
「大丈夫ですか?」
突然、俺を濡らし続けていた忌わしい雨が止んだ。
いや、止んだわけではない。
雨の音は続けて聞こえているし、足の方は未だ雨に打たれ続けている。
なら何故止んだのか。
俺の目の前で心配そうに俺を見下ろし立っている少女が傘を持っているからだった。
少女と言っても年は16あたりで大人になりかけというところだろう。
白に近い金髪や色素の薄い目から俺の家の人間であることは明白だった。
その彼女の整った綺麗な顔は今、俺を見つめ心配そうな表情になっている。
「大丈夫ですか?」
「あっ、あああ、ああ。大丈夫だ!」
傘を持っていないほうの手が自分に差し出されているのだとわかり、慌てて手をとり立ち上がる。
手をとった後で気付いたが、泥だらけの俺の手は当然彼女の手を汚くしてしまった。
格好悪いぜ俺・・・・・・対して少女の方は気にしていないようだった。
それどころか綺麗な白いハンカチを取り出して、俺の顔に付いた泥をためらいも無く拭った。
「派手に転びましたね。怪我はありませんか?」
「い、いいや! 大丈夫だ! それよりハンカチが・・・・・・」
俺がどもりながら答えれば、それはよかった、と俺より大分小さな少女は言った。
彼女は俺が落とした傘を俺の手に渡して、もう転ばないで下さいね。と念を押すように付け足した。
・・・・・・正直、情けないな俺。
問題だったのはその後だった。
傘を渡すその時に触れた少女の暖かい手に、びくりと体が固まる。
それとは反対にばくんばくんと心臓がうるさく騒ぎ出す。今にも口から飛び出してきそうな勢いだ。
体の持ち主である俺はなにがおこったのか訳が分からず、最終的に。
「お前が好きだ!」
・・・・・・は?
自分でも意味がわからない突然の告白。
心臓よりも早く言葉が先に飛び出した。
ぽかんとしている少女。
きっと俺も同じ顔をしているに違いない。
最高に居心地の悪くなった空気に耐えられなかった俺がしたことといえば。
礼を叩きつけるように言った後、そのまま全力疾走で少女に背を向け走り出したのだ。
後から思い返せば、まったく訳が分からない。