犬も歩けば棒に当たる。…私は何に当たる?
□ラフ・メーカー
2ページ/4ページ
体中の水分を使い果たす勢いで涙が流れる。
大洪水の部屋にノックの音が飛び込んだ。
「……あのやろう」
まだ居やがったのか。
掠れてがらがらになった声で小さく悪態をついた。
あれから時間がたったのか、または全然たってないのかまったくわからないけど、私はドアに近づいて出来る限りの大きな声で言った。
どん、と訴えるようにドアを叩く。
「消えてくれって言ったろう」
「……そんな言葉を言われたのは、」
未だに続いているアントンの標準語にイライラは募るが、その声の低さに気付く。
「生まれてこの方初めてだ。
非常に悲しくなってきた」
言われて初めて本気でアントンに怒った事を思い出す。
それでももうそれ以上気にする事も出来ずに、ずるずると力なく玄関でへたり込んだ。
どうしよう、泣きそうだ。
そうアントンの声で聞こえたその次に。本当に泣き声が聞こえてきて。
誘われたのか再び私の目から溢れる大粒の雨。
ラフ・メーカー!?
冗談じゃない。アンタが泣いてちゃ仕様がない。
アントンだって知ってる筈だ。
私がどれだけ悲しいか。
ずっと私の隣にいた腐れ縁。わからないわけが無い。
泣きたいのは、俺のほうさ。
こんなモン呼んだ覚えはない。
怒り、悲しみ、悔しさ、うっとおしさに寂しさが入り混じった涙が、こんどは玄関に水溜まりを作り始める。
ぐす、ぐすっ、と寂しく響く二人分の泣き声遠く……