犬も歩けば棒に当たる。…私は何に当たる?

□うるさい、ばか
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「うるさいうるさいっ!」

「うるさいのはお前だよ! 今何時だと思ってんだ」


五時過ぎてんだぞ。
その佑助の言葉が刺さる。そんなに時間が過ぎてたとは。

外を見ればなるほど暗い。
夕日はもう沈んだあとだった。


そんな事はわかってるけど、それでも私に付き合って部室に残ってくれてる佑助もばかだ。
ばかだ。佑助も私もばか。ばかばっか。


自分でもわかってた。

裁縫はなによりも苦手だって。
だから頑張ったって言うのに結果はこれだ。


「糸まで色変わってんな。どんだけ針にやられてるんだお前」

「だって針を出そうとしたら刺さるんだもん」


ぶふ、と佑助が吹き出した。
そんなに反応しなくてもいいと思うんだ。
握って開いてをした手に血が滲む。ついでに涙も滲む。


「波縫いもガタガタじゃねえか。しかも赤い!」

「模様だもん・・・・・・」


自分でもバレバレの嘘をついて、出来る限り強がった。
不器用で悪かったな、と言う前についに涙腺再び崩壊。


「ちょ、え、泣いちゃいました? え、ごめんなさい、まじでごめんなさい!」

「っ、やっぱ家に帰ってやる。これ以上佑助に残ってもらうの悪い」

「え、いや大丈夫だって!」


佑助優しすぎ。
あわてふためいた佑助が可笑しくて涙は止まった。

苦笑いしながら私のまさに血を滲ませた努力の固まりである布を取り返し、鞄にしまう。
提出期限は明後日だし、まだ大丈夫。な筈。


そんな事を思いながらソーイングセットを最後にしまって、マフラーを手にとった。
まだ余裕でバスに間に合う。

立ち上がりマフラーを巻きながら廊下へ出た。
佑助がどんな顔をしていたのか少し気になるが、きっと変わらずポケーッとして、何時に帰ろうかを考え始めるんだろう。


「あ、手袋忘れた」

「なぁ春海」


驚いた。
一瞬で考えていた事すべてが弾け飛んで、息をするのすら忘れた。
正直驚愕を通り越して恐怖。叫びそうになった。

部室の中にいると私が思いこんでいた佑助はすぐ後ろにいた。
私の後ろの佑助が息をすった音が聞こえる。


「春海。お前俺がなんでこんな時間まで一緒にいたかわかってる?」
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