犬も歩けば棒に当たる。…私は何に当たる?

□びしょ濡れの相合傘
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「チッ……雨かよ」


下駄箱の所で立ち往生
今日に限って傘を忘れたのだ
生憎、小雨なんて可愛いものじゃなく
どしゃぶりの雨だった
それはもうバケツをひっくり返したようと
天気予報で比喩に用いられるくらいに


「……はぁ」


ため息を一つ
これはもう、濡れて帰るしかない
そう覚悟して、一歩進むと


「とうっ」

「いってッ!?何しやが――」


頭に痛み
誰かに何かで後ろから叩かれたのだ
怒り任せに振り返ると


「痛かった?ごめんねぇ〜」


悪びれも無い笑顔で水瀬が言う


「だって、こんなどしゃぶりなのに
 傘も合羽も無しに帰ろうとするんだもん」

「だからって傘で叩くことねぇだろうが!」

「柄で引っ掛けて止めたほうが良かった?」

「……普通に止められねーのかよ」

「そしたら、面白く無いじゃん!!」


まったくこの女は……
そう思っても、不思議と嫌な気分は起きない


「まぁ、お詫びに傘に入れてやらない事も無いよ☆」


へったくそなウィンクで
茶目っ気たっぷりにそう偉そうに言い放つ
素直に頷くことに……なんて出来なかった
不器用さに呆れる


「べ、別にいい」

「えー何でぇ?
 雨、すっごいよー
 濡れて帰ったら絶対風邪引くって!
 ……それともさっきの怒ってる?」

「……怒ってねーよ」

「むー怒ってるんじゃない?」


膨れっ面で見上げる
それがいつもより幼く見えて
不覚にも可愛いと思ってしまう


「みっ見んなよばかぁ!!」

「ちょ、人がせっかく謝ろうとしてるのに!!」

「俺がいいっつってんだから
 別にいいだろ、帰れよッ」


何でこんな事しか言えないんだろう
自分が嫌になる……
そう自己嫌悪に陥りそうになっていると


「あっそーですか!
 じゃぁ、ずぶ濡れになって帰れば!!
 アーサーのおたんこ眉毛ッ」


春海はそんな事を言い捨てて行ってしまった



「最悪だ……」


頭を抱えて座り込む
せっかくの春海の好意を無駄にしてしまった
……チャンスでもあったのに


「――ほんっと、君って馬鹿だね」

「!?」


驚き二度目
振り返るとアルフレッドが立っていた


「せっかく春海が
 こんな遅くまで残って待ってたのに」

「え、そうなの…か?」

「まぁ、正確に言うと
 俺の補習に付き合っていてくれたんだけどね!
 けど春海言ってた
 『アーサーを待つ、ついでに』
 だってさ」

「……あ」


外の雨のせいもあったが
だいぶ経ってに暗くなっている
そんな時間まで待ってたのか?
それなのにあんな言い方をしてしまった


「春海も馬鹿だよね
 こんなアーサーのためにだなんてさ」

「う、うるさいッ」

「……追いかけないなら
 俺が行っちゃうけど、良いのかい?」

「……チッ」


アルフレッドの挑戦状ともとれる笑みに
情けないと思うが、走り出す






「……俺も人の事、言えやしないね」
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