犬も歩けば棒に当たる。…私は何に当たる?
□愛してるとかほざいて
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アーサーの家に着いて最初にされたのは、あいさつなんかじゃなく荒々しいキスだった。
Hello、と言おうとしたのを途中で遮られる。
アーサーの舌が私の口内で動き回って。
上の歯をなぞるように舐め、そして舌を絡め取られる。
アーサーの思うように私の舌が弄ばれ、互いの唾液が混ざり合ってついでに空気とも混ざって音をたてた。
息が出来ない。
唾液を飲み込んで口で息をしようとしても、またさらに唾液が溢れて零れた。
ならば唇を離そうとしても頭を右手に固定され離せない。
体ごと離れようとしても左手が私を抑えて動けない。
ところでイギリスではキスもあいさつに入る。
だってここは欧州で。
だがしかしここまで乱暴にあいさつされたのは初めてだった。
はたしてこれがあいさつの意味であるかどうかは別として。
とろける様な甘いキス。なんて優しい物じゃない。
溶けるような熱いキスだった。
体が中心から溶かされて、アーサーの唾液と交じってしまいそう。
アーサーを押すために出していた手も既に服を掴むことしか出来ていないし、足も腰も役立たずで結局私はアーサーに支えられていた。
離れようとも思えない。
きっとすでに脳みそが溶けたのだ。
「春海っ」
アーサーのセクシーな声で呼ばれて耳まで溶けていく。
なんだかよくわからないけど幸せなんじゃないかと思い始めた時だった。
「さっき一緒に歩いてた男誰だよ」
「へぅ?」
キスが終わり、くらくらする中で上から聞こえた言葉。
その内容に思わず聞き返してしまった。
それがいけなかったのか。
ぽとりと落ちた液体。
なにかと驚きアーサーを見れば、彼の目が溶けて落ちていた。
いや、溶けていやしないけど。
こぼれていたのはアーサーの涙だった。
「アーサー?」
「どこの男だよなんで楽しそうに話してんだよお前俺の彼女じゃないのかよ俺の事嫌いになったのかよ」
ぐすぐすと泣きながらアーサーはそれからも私に?マークのつかない質問を繰り返した。
しかしかなりの頻度で嗚咽も交じり、後半部分は聞き取る事自体が不可能だった。
アイドンノウ。
アイドンノウ。
イエス。ノー。
最初の聞き取れた質問に答えるならこういう順だったが。
それを答える暇もなく私は再びアーサーに口を塞がれた。
まず、私はそのさっき話したと言う男の人の事がわからない。
さっきがいつなのかさえも。
今の時刻は午後の一時半。
これは今日朝早くに起き支度を整えすぐ日本を発って、それから飛行機で爆睡してからイギリスに到着次第ぶっちゃけすぐそこまで全力で走ってきた結果だが。
さっきまでに話した男性が思い浮かばないのだ。
・・・・・・もし日本で出発する前に挨拶した散歩中のおじいちゃんを含むなら別。
まあおじいちゃんとは挨拶しかしてないし、そもそもアーサーが知ってるかどうかが不明だった。