犬も歩けば棒に当たる。…私は何に当たる?

□愛してるとかほざいて
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「アーサー、私アーサーの事が大好きだよ?」

「嘘だ」


ぐすり、と鼻をすするアーサー。
なんだか今日のアーサーはおかしい。
いつもならこんな事しない。


照れながら抱きしめて挨拶のキスも爽やかで。
それでいて私を疑ったりしなかった。
私が言った言葉に嘘だと返した事なんてなかった。


一体どういう事かわからないままアーサーが泣く姿をじっと見るしかできなかった。
どうしよう、私まで悲しくなってきた。


「春海は俺の事を嫌いになったんだろ」

「なるわけ無い」

「だったらなんで・・・・・・」


そこで言葉に詰まり、アーサーの目が変わった。
まるで酔ってる時の大英帝国状態。

そんな彼の目は緑と青が交じって透き通っていて、努力すれば向こう側が見えそうな勢いだった。
いや、そんな綺麗な目はいつもである。


いつもと違うのは。
彼が“夜”の、意地の悪いバージョンである時の目である事と。
やけに感情の起伏が激しい事ぐらいだった。

やばい。なんてもんじゃない。
目も当てられない、手も着けられない。
なにをすればいいのか検討もつかない。

そんな大ピンチ。


「アーサーとりあえず落ち着いて」

「落ち着いたらお前は俺と別れを告げるのか?」

「だからどうしてそん、ぎゃふっ!」


ごつりと痛い音がした。
広い玄関の端で、壁に押さえつけられ再びあの熱を帯びたキス。

くらくらしながらも辛うじて人が来たらどうしようとそんな事を考えていた。


アーサーが耳元で甘くささやく。
しかしその声もどこか泣きそうだったのがよくわかる。


「俺は本当は春海を鎖で縛っていたい常に監視していたい。好きなときに俺と一緒に出かける事を許すから頼む春海俺とずっと、俺から離れないで」


最後の辺りにはすでに涙声になって、幼い子供のように縋って頼って掴んで。もう既にいつものアーサーと違うことは理解できた。
でもいくらいつもの彼と違ったって、今の言葉が本音なのがひしひしと伝わって。


ついに私の目も溶ける。
アーサーが滲んで見えた。

綺麗なアーサーの顔を見るのに泣いていたらこうやって滲むから。
勿体ないからと今まで一度もこうやって泣いたことなんて無かったのに。

あまりにも彼が泣きじゃくるので、私だって今まで溜めてたものが溢れてしまったのだ。


「アーサー、私、私アーサーのことおいていかないよ、いつだって一緒がいい。出掛けるのだってアーサーと一緒じゃなければ全然楽しくないんだよ」


玄関の端で泣いている私たち。
私の上で泣きじゃくるアーサーとアーサーの下で泣き喚く私。

きっと外まで聞こえていたんだろうと後になって思ったが、その時の私たちはただぼろぼろと涙を流すしかしなかった。


「アーサー、大好き、大好きだよ」

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