犬も歩けば棒に当たる。…私は何に当たる?

□好きすぎてすき過ぎて
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「ねぇ春海」


なに、と返ってくる所を口を塞ぐ。
柔らかい唇を味わってそのまま優しく抱きしめた。

春海の甘い匂いが鼻を擽ってぎゅ、と抱きしめた力を強くする。
彼女の体が堅くなったのがわかった。
緊張したのかどうなのかわからないけど、その事実に少し悲しくなる。


厭らしくリップ音を残し唇を離して見つめ合って。
彼女は今相当に動揺しているように見えた。

まばたきを忘れ顔を真っ赤にして、何か言いたげに口を何度も開け閉めさせて。


「ベッド行かない?」


春海はすでに何も言わないけど。むしろ聞く気も最初からなくて俺は春海を抱きかかえた。
わ、と予想外だったのかそこで初めて声が出た。


その彼女からは重さを感じない。ちゃんと食べてるか心配になる。
よし、今日の夕飯はお兄さん頑張っちゃおう。


「春海は俺の事好き?」


返事はもちろん返ってこない。
しかしもうそろそろ、もしくはベッドに座らせた途端に彼女は否定の言葉を出すのだろう。

嫌だ。止めて。そう言って別の部屋に行く(その背中を見送るのが、すごく悲しい)。
それがきっといつもの君。


それでもいい。
今日は。


少しでも俺からの愛を感じてくれれば。
俺に愛を見せてくれれば。
それだけで充分だから。
ただ安心したいだけだから。

俺は君の目に男として写ってるか。


しかし、もう既に寝室に着いてしまった。
彼女は何も喋らない。

ピクリとも動かずにただ黙って抱えられている。
そっと細心の注意をして俺は春海をベッドに座らせた。
彼女は俯いたまま何も言わない。何もしない。


「春海?」


心配になって小さく読んでも、反応がない。
機能が全部止まってしまったかのような、まるで無反応。

ねぇ聞いてるの、と続けても俯いて。
何かを言おうとしてるのか、何も考えていないのか。


ぽたりと落ちたなにか。
意識してその落ちた物を見れば、目から落ちるもの。

涙。


それはどんどん数を増やしていってついに春海の手のひらにも一つ。


「フランシ、ス?」


泣いてたのは誰でもない俺で。
俺と同じかそれ異常に驚いているのは春海で。

自覚したとたんに遠慮が無くなったのは俺の涙だった。
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