犬も歩けば棒に当たる。…私は何に当たる?
□選べない、苦渋の選択
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目の前には、この世のものとは思えない「それ」。
私はただ、がっくりと肩を落として溜息をつくばかりであった。
春。
それは出会いと別れの季節。
人はそういうけれど、私は特にそんなこともなく。
相変わらずの人生を送っている。
…はずだった。
<…ぴーんぽーん……。>
それは、「それ」の始まりの音。
「ねぇ、えりな。」
仕事も休みで、ごろごろしていた私のところに来たのは、アルだ。
青い瞳が私をその中に沈めている。
「何?」
特にやる気もなく欠伸交じりの反応にむっとしたのか、その幼さの残る顔を顰める。
しかし、休みの日なのだから極力何もしたくない私のところに来たのだから、そんな反応をされても仕方がないのでは。
何か言われたらそう言い返そうと心に決めた。
「…今日はいつになくダルそうだね。」
「だって休みの日だもの。」
「それにしたって。」
「煩いなぁ。用がないなら帰んなよ。」
耳をふさいで煩いとジェスチャー。
それを見て溜息をついたアルはこれ以上何を言っても無駄だと悟ったのだろう、その辺にあったクッションを引き寄せて座り込んだ。
「で?今日は何しに来たの?」
私の問いかけに、アルは近くに抛っていた自身のバッグをあさり出した。
…なんだろう、こうなってくるといやな予感しかしない。
なんだか頭痛がしてきた。
こういう「カン」はよく当たるのだ。
そう、まさに的中した。
「今日は俺んちのお菓子を持ってきたんだぞ!」
そう言って取り出したのは…お菓子とはいえない色の「何か」だった。
「…これは?」
「クッキーさ!」
どう見ても色鮮やかなおもちゃみたいな物体。
これをどう見れば「クッキー」になるのだろうか…。
「…なんでこんな色なの?」
「? 普通だろ?」
「いや、常識的にこの色はない。」
「そんなことないんだぞ。これはクリームとか砂糖菓子とかで飾り付けしてあるだけだし…。」
このカラフルなものの正体はそれか。
なんとも…なんとも食欲が消え失せる色…。
「…遠慮しとく。」
「えぇ〜!?何でだい!」
理由くらい自分で考えたらどうだ。
だいたい、こんな体に悪そうなお菓子今摂取したら、確実に死ぬことはわかっているだろう。
というか、さっさと寝かしてくれ。眠い。
「むぅ…仕事で疲れてると思って、甘いものを持ってきたのに…。」
…おいなんだその捨てられた子犬のような目は。
やめろそんな目で見るんじゃない。
「そ、それは有難いけど…。」
「じゃあ食べてくれるのかい?」
「う…。」
誰か助け…。
<…ぴーんぽーん……。>
…それは、追加の音。
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