犬も歩けば棒に当たる。…私は何に当たる?

□選べない、苦渋の選択
2ページ/3ページ



助け舟?
違う、そんなんじゃない。

私は寝ていたいのに…。






助かった。
そう思って急いで玄関に向かう。

「はいはいどちら様…。」

ドアスコープを覗く。
と、そこにいたのは特徴的な眉毛の彼。

「…アーサー。」
「よう。元気か?」

今のよれよれの姿を見て、元気そうに見えるのだろうか。
誰が見ても死にかけだと思うのだが…。

「…あいつが来ているのか?」

玄関先のアルのスニーカーを見て、顔を顰めるアーサー。

「まぁね。」
「何で。」
「知らないわよ。本人に聞けば?」

欠伸交じりにそう言うと、顰めた顔をスニーカーから私の方に向ける。
くすんだ金の髪がさらりと動いた。

「…邪魔する。」
「どーぞ。あ、ついでにお茶用意してね。」
「お前は客に茶を用意させるのか?」
「あんたに敵う訳ないでしょ。淹れて文句言われるの嫌だしね。」





…で。

向かい合わせに座る、二人。
私はアーサーの淹れた美味い紅茶を啜りながらその様子を見ている。

「何で君が来るんだい。」
「そっちこそ。」
「俺はえりなに差し入れを持ってきたんだ。」
「奇遇だな。俺もだ。」

テーブルの上は、もう何がなんだか分からなくなっている。
まさに混沌。カオス。

「えぇっと…二人とも何しに来たんだっけ?」
『お前(君)に差し入れを持って来たんだ!』
「…ほぅ?」

それが…ですか?
どう見ても黒い物体とカラフルなおもちゃにしか見えないんだけれど…。

「…何の差し入れだっけ?」
「クッキーさ!」
「俺もだ!」
「どう見ても食いもんには見えねぇな…。」

思わず頭を抱えたくなる。
というか、もう抱えている。
この状況をどうしろと…?

「…クッキー好きじゃなかったか?」

恐る恐るといったようにアーサーが聞く。

「別にクッキーは嫌いじゃないけど。」

その物体を果たしてクッキーと呼んでいいのか。
そもそも食べ物なのかも怪しい。

「そう、か。嫌いじゃないなら…よかった。」

そう言ったアーサーはとても嬉しそうな顔をしている。
う…良心が…。
一応、私をを心配して来てくれたんだ。
そうだよね、私のために…。


…ってなるかぁぁぁぁっ!

危ねぇ!
今危なかった!
こんなところで死にたくないし。
せめて美味しい物食べて、思い切り贅沢して死にたい。

「…お、俺の手作りだから…口に合わないかもしれないが…。」

!?

「俺のは手作りではないけど、頑張って美味しいお店を探したんだぞ!」

…。
選べない、苦渋の選択。
それはどちらを選ぶかではなく。
それらを食べるか、食べないか。




…死を覚悟した。

「いただきます。」

奇妙な物体を二つ、口の中に入れた。
あ…駄目だ。
想像してた通りの味だった…。
意識が、薄れていった。






次の日は、仕事を休んだ私であった。



end
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ