犬も歩けば棒に当たる。…私は何に当たる?

□不思議の国のひまつぶし。@前編
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 歩む歩む記憶の世界。

 繋ぐ紡ぐ想いの世界。

 巡る巡る色彩の世界。

 廻る廻る因果の世界。

 望む望む●●の世界。



 五つを繋ぐ一つの想い。
 一つを創る十二の歯車。
 そして十二の中。
 負の想いは重なり、応えて、害を招く。


 さぁ、準備は良いかい?


 音楽を流して――

 華やかに――

 爽やかに――

 君を出迎えよう――




 ◇ ◇ ◇





「……」


 最近は良く不思議な出来事に遭遇する。
 昔好きだったヘタリアの某眉毛が我が家に居候して来たり、各言う私も(番外編で)一時的にトリップしたり。
 ほほう。小説家なりに突拍子の無い事を構想(妄想)してたりするが、常に頭がぱーんっしていると身に起こる事までぱーんっなのか。


「ふむ」


 辺りを見渡せば緑。
 逆に緑緑緑緑緑緑しかない。
 木々が生い茂り、芝が足元を埋め尽くす。
 有り難いのか有り難くないのか獣の鳴き声が一切しない。
 森に響くのは風でこすり合う葉音のみ。


 ……あぁ、森だ。
 まごう事なき森だ。


 確か神原から電話が来て、インターフォンが鳴って、居留守を使おうとアーサーに託したんだ。
 どりゃあ!とベッドに飛び込みスライディング鎖国しようとしたんだよ。


 でも落ちた。
 ベッドの底が抜けて落ちた。
 決して私の体重で底が抜けたとかじゃない。空いてたんだよ元から。


――気付いたらここに大の字で倒れていた訳で。


 しかも青色ふりふりエプロンドレス姿。
 言っておくがあたしの趣味じゃない。
 きっと気を失っている内に誰かが着替えさせ――否、プ〇キュア的な瞬間着替装置が働いたんだ。
 深くは聞くな!大人の事情だ!


 くそ。今回の件も管理人が関わっている事は明白。
 かなりの変人であると自負している位だから有り得なくはないけど――まぁ、考えても仕方ない。
 あたしは気紛れな管理人に付き合う程お人好しじゃないんだ。早々に脱出させてもらおう。


 でも今回の不思議体験。
 今までとは違う事がある。
 “傍に誰もいないんだ”
 髭だったり、綺麗な外人のお姉さんだったり、一緒に話して考えてくれる人がいない。


 あたし一人。
 一人ぼっち。
 ケセセ。一人楽しすぎるぜ……。


 でも見知らぬ森に一人放浪させないだろう。
 こういう場合、タイミング良く後ろから誰かがやって来て一緒に帰る方法を探るものなんだ。


 何でわかる?
 ふっ。小説家の勘だ。


「あぁ。忙しい忙しい」


 はい来たこれ!
 背後。森の奥から誰かが走って来る。
 チェックのショートパンツ。Yシャツにネクタイ。
 片手で懐中時計を確認しつつ、空いた手には複数の買い物袋。


「全く。いきなり呼び出した上に買い物して来いだなんて何考えてるのよあの女王は」


 でもウサ耳。
 本物か分からんけどウサ耳。
 遠くて見辛いけどあの若々しい肌と動きは多分十代。
 あぁ、何という事だろう。あたしの管理人はここまでコスプレ好きだったなんて。
 とりあえずこの子に色々聞いてみるか。

「もしもしウサ耳お嬢さ」

 ん、まで言えなかった。
 どひゅんッとあたしの目の前を通り過ぎて行った。
 前髪が風にさらわれた。
 声も出せずに彼女の行方を目で追った。
 ついさっき通り過ぎたあの子は既に遥か彼方。


 ……えっ。
 絶対見えてたよね。気付いてなきゃ避けられないよね。


 どうしましょ。
 『トリップ先の住人はみんな優しい』という暗黙のフラグを折られてしまった。
 あたしがフラグクラッシャーなのか。あの子がフラグクラッシャーなのか。
 はたまた挨拶をしなかったからなのか。こんにちワンとでも言えば良かったのか答えろ小娘!
 ふと足元に何か落ちている事に気づく。
 ハンバーガーだ。
 あのウサ娘が落として行ったのだろうか。


「拾って頂きありがとうございます」


 ひゃッと思わず奇声を上げた。
 だって通り過ぎた筈の女の子が目の前に立っていた。
 音も気配も無く、当然のように目の前に。
 あたしじゃなくてもビビるだろ。
 アーサーだったら絶対眉毛を、間違えた。腰を抜かしていた。


「申し遅れました。私は白うさぎと――」


 途切れた。
 深々と頭を下げ、顔を上げた瞬間に。
 あたしも彼女を凝視していた。


 パッツン前髪で祖国似の光無い瞳。
 あれ。この子戯筆屋のコラボ企画で何回か顔合わせした事がある。

 確か名前は――。


「花蓮ちゃん……だよね?」

「白うさぎです」

「花蓮ちゃんだよね」

「白うさぎです」

「花蓮ちゃんでしょ」

「白うさぎです」

 何だこれ。
 余計に状況が分からなくなって来た。

「あたしの事覚えてるでしょ。ほらアーサーの」

 すると白うさぎさん(という事にしてあげる)は慌てた様子で懐中時計を開いた。
 いかにも演技臭く。いかにも逃げ出す口実を作るように。

「あぁ、急がないと女王の怒りを買ってしまいますね」

「そのウサ耳って本物?カチューシャ?凄く似合っ」

「そのハンバーガーは御礼に差し上げます。いつか役に立つでしょう」

「わぁ。落ちたハンバーガーが何の役に立つのかお姉さん分かんなーい」

「それでは失礼します」

 はい逃げた。自称・白うさぎ逃げ出しましたよー。
 でも折角見つけた手がかり。みすみす逃がす訳には行かない。
 あたしはスカートでもたつきながらも後を追った。
 すぐに追い付けると思ったんだ。
 大人のお姉さんナメるなよ!


 でも、あたしの管理人から聞いた事がある。
 あの子は昔、陸上部に所属していたらしい。
 今こそメタボな居候とのんびり暮らしているが、その運動神経は健在。

 対するあたしは職業柄、引きこもりがち。
 典型的な運動不足。
 そして森を走るに相応しくないふりふりドレス。


 答えは明確明瞭。
 追い付ける訳がない。


 あたし達に間は約数十メートル。
 お姉さんかなり必死。
 追われる方も必死だけど案外涼しい顔。

「あの二人がついでにハンバーガー買って来いだのアイス買って来いだの言うからじゃない。女王に報告したら何を言われるか」

 女王?報告?
 それにしてもこの距離で聞こえるなんて独り言大きいよ花蓮ちゃん。
 すると全力疾走していた白うさぎは大木に直進し、そのまま根と根の隙間に空いた穴に体を滑り込ませた。
 これまた妙な所に入り込んだもんだ。
 数秒遅れてやって来た私は、息を切らしながら大木を見上げる。


 樹齢は何百年だろうか。相当な高齢樹。
 十人手を取り合っても木の周りを囲みきれるかどうか。
 一通り木の回りを観察して、さっき白うさぎが入った穴を覗いた。
 うん。暗くてどうなってるか良く見えないな。


「神原が入れば先に行かせるんだけど」


 一人だもんな……。
 安全確認出来ないのは少し不安。


 でも待って。この状況なんかト〇ロの住みかに行くみたいじゃない?
 確か穴を通るとあの大人気口でかお化けの所に行けるんだよね。
 あ、もしかしてトト〇パロ?。
 さっきの花蓮ちゃんも白うさぎとか言ってたけど実は白チビ〇トロ?


 しかし問題発生。
 トトロは子供にしか見えないし会えないという。
 年下の花蓮ちゃんがギリギリだろうか。
 でも大切なのは無垢な心。
 伊達に夢を夢を重ねてないぜあたし!
 怖い時は声を出せば良いじゃない!


 意を決して穴の中へと足を踏み入れた。


「あっるこーあっるこーあたしは」



 落ちた。




 ◇ ◇ ◇





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