犬も歩けば棒に当たる。…私は何に当たる?

□不思議の国のひまつぶし。@後編
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あまりの眩しさにあたし達は目を瞑ってしまう。そしてその光が少し緩まり目をうっすらと開けた時、先程まで唯人君がいた場所に唯人君はいなかった。

その代わりに白く輝く巨大な繭がそこにはあったのだ。

「…えっ?唯人…くん…?」

「お、おい…唯人…?」

恐る恐る尋ねるも返って来るのは虚しい程に静かな沈黙のみ。
いやいや、これは流石に不味いだろう。完全に頼みの綱が断ち切れてしまった。

「唯人君っ!?唯人君ってば!起きろ!頼む!」

何度揺さぶってもやはり返って来るのは虚しい沈黙だけ。途方に暮れているあたしの後ろではドッペルズが「あちゃー」なんて言っている。…殴ってもいいだろうか。




そんな時だ、



「やっぱりお困りのようね」


彼女が再び現れたのは



「ちぇ…チェシャえもん!!」

「だからチェシャ猫だって言ってるじゃない」

うわーチェシャえもーん!!何とかしてー!
仕方ないなぁアリスちゃんはぁー…はい、タケコプー……なんて馬鹿な展開は無くすがり着く私にただニヤニヤと笑みを浮かべるチェシャえもん。

「…オイ真琴、誰だこのおばさ―おぶほぉっ!!」

「アーサーあああ!!?」

チェシャえもんをオバサン呼ばわりしようとしたアーサーはチェシャえもんに容赦無く背中を力強く蹴られると地面と盛大にキスした。綺麗な顔が台無しだ。
それに比べてチェシャえもん。ついさっき人一人蹴り飛ばしたと言うのに変わらずに涼しげな笑みを浮かべ腕を組んでいる。

「あれ、Motherじゃないかい。どうしたんだい?」

「アリスがお困りの様だからね。仕方なく助けに来たのよ」

それから真剣な眼差しであたしを見た。

「さて、アリス。アンタはその友人…神原を探したいのね?」

真剣な眼差しを見つめ返してあたしは頷く。するとチェシャえもんは柔らかな、母性愛に満ちた笑みを浮かべると私の頭を撫でた。

「なら話は早い。女王のいる城はこの森を抜けたら直ぐの所にあるわ。そこへ、その眉毛君と一緒に向かいなさい」

小さな小道を指差しながらあたし達に言う。

「えー…俺達は行けないのかい!?ヤダヤダそんなの退屈なんだぞ!」

「仕方ないって諦めな」

拗ねた様に唇を尖らせて言うアルを宥める光輝君。そんな彼らに苦笑してあたしは倒れながら赤くなった鼻を擦るアーサーの腕を取るとチェシャえもんを見て言った。

「ありがとうチェシャえもん」

「良いのよ、これも私の気紛れだから」


ニヤリ、と妖艶に笑うとチェシャえもんは姿を消した。

この小道を抜ければいよいよ最終地点に辿り着く。

女王が何者かなんて知ったこっちゃ無いけど、此処まで来たんだ。最後まで行ってやろうじゃないの。

あたしはチェシャえもんの専門特許であるニヤリとした笑みを浮かべるとアーサーと地面蹴った。
すると後ろから声をかけられる。振り向くとドッペルズの二人は良く似た柔らかな笑みを浮かべるとこう言った。



『『縁があったらまた会いましょう』』


星屑がまた一つ瞬いた。




◇ ◇ ◇



小道を一気に駆け抜けるとそこに確かに城があった。血の様に赤いレンガで作られたそこは何処か強く、同時に儚くも感じられる。なんて作家染みた感想を脳内につらつらと並べていると隣にいたアーサーが城を見上げながら顔をひきつらせた。どうしたのかとアーサーを見れば僅かに顔が青い。

「どうしたの?」

「いや…なんかこの中から嫌な予感が凄くするんだが…」

「気のせいじゃない?」

なんて不吉な事を言うんだとアーサーに言うと暫く黙り込み考える素振りを見せる。アーサーはそう言うけれどあたしはこれっぽっちもそんな気はしなかった。寧ろ暫く帰って無かった田舎にでも帰って来たのような…そんな懐かしささえ感じていたのだから。
あたし達は暫く無言で城を見上げる。

その時だ、背後から気配を感じたのは。背後に敏感なアーサーが警戒したように振り返る。あたしも続いて振り返った。


「ようこそおいで下さいました」

少し高めのアルト。
そこにいたのは綺麗な碧の瞳で笑う、何処か儚げな雰囲気を纏う青年だった。
彼は唖然とするあたし達に再び微笑みかけると予想外な言葉を続けた。




「女王が、待ちくたびれているよ」

早く中へ、そう言うと彼はあたし達に城内へ入る様に促した。
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