犬も歩けば棒に当たる。…私は何に当たる?

□有意義アバンチュール
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図書館。博物館。美術館。
植物園に科学館。
散歩するだけの時もあった。
あとは学校の図書室で勉強会とか、学校の生徒会室で勉強会とか、学校の教室で勉強会とか。

それが椿君と一緒に行った私達のデートコース。


勉強が嫌いだとは言わない。
静かな所が嫌だとも言わない。

ただ、ただせめてもの話。
密かな願い。本当に小さい願い。


もう少し、遊ぶと言う要素が欲しい。


本が嫌いな訳じゃない。
歴史が嫌いな訳じゃない。
ましてや絵画や彫刻や植物が嫌いな訳じゃない。

ただそう言うことなのだ。
こんな、初老の夫婦みたいなデートじゃなくて。


スケジュール帳に書かれた先日の予定を見てため息をつく。
手に持っていたそれを机にぱたんと置いた。

それから近くに置いていた漫画に目が移るが、なかなかそういう気分にならない。


お気に入りのピンクのペンをくるくると回して、それから今月の記念日にぐりぐりと荒くハートマークを描いた。
今月の記念日は休日みたいだ。

でもきっと椿君はそれを覚えてないし、私が言い出したってまた例のデートコースを辿るんだろう。


ついこないだに記念日となったその数字と見つめ合って、結局溜め息をつくことになった。
幸せな悩みだと人は言うのだろうけど、悩みは悩みである。
深刻は深刻なのだ。

手帳をペラペラとめくりながら来月、再来月の日付を見つめる。


しばらく見当たらない記念日が休日の月とか、見たかったテレビ番組はいつだったかなとか。
そう言えば来月は椿君が好きな作家さんの本が発売だったんじゃなかったかなとか。

思う事はいろいろあるのだけれど。
結局考えるのは椿君の事でなんだか恥ずかしくなった。


その時、机の端に放置していた携帯がちかちかと光りだした。
ピンク色に光るところを見るとどうやら椿君からのメールの様だ。なんて。

思うと同時にそのメールを確認していたりするんだけど。


メールの文章には絵文字が付いていなかった。
いつもの事だけど、その所為で椿君がどんな顔でメールしてきてくれてるのかがわからない。しょんぼりだ。

そして肝心なメールの内容だけれども。
絵文字が無い、たった一文でこう打ってあった。


今から電話してもいいか?と椿君が珍しく電話したいと言う意志を示して来たのである。


「なんですとっ!」


こちらとしては大慌てしてしまうぐらいの大事件で。
危うく携帯が手から滑り落ちる所だった。

いや、それはただの比喩で実際の所は驚きすぎて携帯を力強く握っていたけれど。
ともかく私が慌てふためいたのは事実だ。
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