犬も歩けば棒に当たる。…私は何に当たる?
□有意義アバンチュール
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震える手で返事をゆっくり打とうとしていたら。もたもたしすぎたのか画面が電話を受信してしまった。
それに驚いてワンコールもしないうちに繋いでしまった。
しまった大変だどうしよう。
もしもし。と電話のスピーカーが音を出す。
椿君の少し緊張した声を音にして。
私はそれに返事をしながらも、更に慌てて部屋のドアを閉めた。
慌ててばかりだと思いながらも、勢いは止まらずベッドに飛び乗るように座った。しかも正座で。
「どうかしたの?」
心なしか声が震えた気もした。
と言うか緊張し過ぎて全身が震えている気がする。
スピーカーが椿君の声で、突然電話して申し訳ないと謝った。
メールに返事してないのに電話してきてしまったことにしょんぼりしているのだろう。
「大丈夫だよ」
どうしたのかと続けて聞けば、椿君は言い淀んだ。
あーとかんーとかずっと繰り返している。
なにか言いづらい事だったりするのだろうか。
私は自分から聞こうか言われるのを待とうか迷ったが、結局唸っている椿君が可愛くて聞きほれてしまっていた。
眉をひそめてい椿君の顔が目に浮かぶ。
その事ににやにやしながら、携帯には録音機能がないのかと考えにふけた。
ボタン一つで簡単に録音して、いつでもどこでも椿君の声が聞けるし着信音にもできるとか。
幸せすぎて死ねる。
恥ずかしいのもちょっとはあるけど。
ちょっと。
「今度の日曜は空いているか?」
「うん」
携帯電話を持ちながら、力いっぱいに頷いた。
それから予定と日付を確認する為にカレンダーを見る。
なんだ、記念日じゃないか。
電話の向こうで椿君が息を吸ったのがわかった。
「毎月春海が言うから、いい加減覚えたんだ」
「そうなの?」
ああ、と笑いながら椿君が言う。それに対して私は凄く嬉しくて、さっきの倍は頬が弛んでるはずだ。
幸せってこういう事を言うのだろうな。
なんて、改めてすぎる事実を確認しながら。
自室のベッドで異様に体を揺する私。
異様と言うか、異常と言うか。
緩みっぱなしの頬を抑えもせずに椿君の言葉を待った。
「どこか、行きたい所はあるか?」
む、と口の中の変な所を噛んだ。
え、あれ。今椿君なんて言ったんだろう。
どこか行きたい場所を言えと言われた。
それはつまり、ええと。どういう事なのか。
「偶には、君の意見も聞きたいんだ」
私の意見を聞いて、つまりそういう事で。
願ったり叶ったりなんだと思ってもいいのだろうか。
そっか、そっかとからからになった口の中で呟いて、何度も頭で椿君の言葉を繰り返す。
これはまさに千載一遇のチャンスかも。