犬も歩けば棒に当たる。…私は何に当たる?

□Awakened feelings
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─ピーンポーン


木で編まれた小ぶりのバスケットを腕に抱え、アーサーの家のインターホンを押す。

アーサーが先日偶然私を見かけたらしく、電話がかかってきたのだ。

「お、お前がどうしてもって言うなら、俺の家でお茶させてやっても良いぞ…!」

だそうで。
まあ彼のその性格には慣れていたので快く承諾した。

「お菓子持っていくからね。」
と、彼の手料理をやんわり回避するのも忘れずに。


アーサーとは、アルフレッドが独立するまではかなり頻繁に会っていたがそれ以来会う機会が減っていた。

昔みたいにちゃんと話せるだろうか?アーサーは私の事を覚えてるかな?
久々の再会に少し緊張する。

ドアの鍵を開ける音がし、玄関が開いた。


「おう春海、よく来たな。入れよ。」

アーサーは英国紳士よろしく、ドアを押さえて部屋までエスコートしてくれる。そういう所は昔と変わらない。

「うん。お邪魔します。」

と彼の家に足を踏み入れる。玄関には花瓶に生けた薔薇の花。
アーサーにバスケットを手渡し、そのまま奥へと彼に着いて行った。

「そこに座って待っててくれ。」

客間に着くとソファーに座るよう促された。

「俺はこれから茶を煎れに行ってくるけど、寛いでもらって構わねぇから。」

「あ、私も何か手伝うよ。」

「いや、客にそんなことさせられねぇよ。」

アーサーはそう言ったが、私は食い下がった。

「ううん。何かやらせてよ。昔はそうだったでしょ。」

長らく会ってないからと言って、よそよそしくなるのは何だか気まずいし嫌だったのだ。

「あ、あぁ。そうだったな。じゃあテーブルにクロスを敷いてセッティングしてもらえるか?」

アーサーは"昔はそうだった"という言葉に反応し納得したのか、遠慮なくやることを言ってくれた。
私としてもその方が嬉しい。


「ほら、紅茶が入ったぞ。」

丁度セッティングが終わった頃に、アーサーがカップとポットを持ってきてくれる。

私もありがとうと礼を良い、互いにテーブルを挟んで向かい合うように座った。

「いきなり電話がきたからびっくりしたよ。」

お茶菓子をつまみながら私はアーサーに言った。

「見掛けたなら声掛けてくれればよかったのに。」

「一瞬だったんだよ。それに、あの時は髭野郎と話してた最中だったんだ。」

「へぇ。フランシスは元気?」

これまた以前はよく顔を合わせていた名前が出て来たので尋ねてみた。

「あぁ。むかつく位にな。」

彼らもやはり相変わらずらしい。


私達は紅茶を飲みながら、近況を伝えあったり昔話に花を咲かせたりした。


「しかし、こうして話してみるとやっぱ懐かしいもんだな。」

「そうだね。」

家にお邪魔する前はちょっとした不安が渦巻いていたが、どうやらいらぬ心配だったようだ。
以前と何ら変わらずにいることに安堵する。

同時に、何か別の感情が湧いているのに気が付き始めていた。


「(そういえば昔、ずっとアーサーのことが好きだったんだっけな。)」


時と共に風化したと思っていたが。
彼と話しているほどに、それと似たような思いが自分の中にあるような気がしていた。

でも、これが恋なのか単に懐かしさから来る情なのかはよく分からない。


「春海、どうした?」

「─へっ?」

「いや、何かぼーっとしてたからさ。」


アーサーに声を掛けられ、はっとする。


「あぁ、何でもないよ。庭の薔薇を見てただけ。」

まさかこの感情が恋なのか考えていました、なんて言える訳もなく、私はそう答えてごまかした。

「あ、それな!今年のはとりわけ綺麗に咲いたんだ。ちょっと水のやり方を変えたんだが、…」

アーサーは嬉しそうに話し出す。なるほど庭の薔薇たちは葉も花も、日光を浴びて素敵に輝いている。


「ねぇアーサー。」


私はおもむろにアーサーの名前を呼んだ。


「ん?なんだ?」

「これからも、こうやってちょくちょく会おうね。」


私がそういうとアーサーは少し驚いたように頬を染めた。


「な、なんだよ急にっ…。ま、まぁお前がそうしたいってんなら会ってやらない事もないぞ。」

「うん!よろしく。」

「……おぅ。」


薔薇の話はあんなに感情を隠さず話してたくせに。
素直なんだかそうじゃないんだか。


今私が抱いているのが恋愛感情なのかは分からないけど、アーサーにこれからも会いたいっていうのは本当だし。

せっかくこうして再会できたんだもの。
こういう事は焦ったりせずに、これからじっくり考えても、遅くはないよね。



─Awakened feelings




End.
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