犬も歩けば棒に当たる。…私は何に当たる?
□地方ゆるキャラ、あります。
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家の電気を付けた。パチリと音がして視界が明るくなる。
いつもと変わらない部屋。テーブルとソファ。少し離れた場所の棚。
開きっぱなしにしてしまっていた雑誌は星座占い欄で、あたしの星座の運勢が書いてあった。
今週は最高! 新しい友達が出来るかも、ラッキーアイテムは桜の香水だよ!はーと。なんて、日本人の億越えの人数がたった十二種類に別れるはずがない。
犬や猫のペットがいるわけでも、ましてや人が住んでいる訳でもないのに。
あたしは今日もただいまと言いながら足を進めた。
突然おや、と誰かが呟いた。あれ、とあたしが言った。
首を少し傾げれば、パソコンの前に誰かが座っているのが見える。
腰上の辺りまで伸びた黒い髪。
振り向いた彼女と合わせた瞳は深い黒。日本人であることは確信できた。
見つめ合うこと数秒。
彼女の向かうパソコンがあたしの物である事を確認し、すぐそれを強制終了。
壊れなきゃいいけど。なんて思いながら暑くなったコンピュータを撫でた。
「なにをする!」
思い出したように彼女が言った。声の落ち着き具合からして、恐らく二十歳かそこら。
やけに堅そうな布のセーラ服に身を包んだお嬢さんは。
モデルさんかなにかに違いない。そう思うぐらいな美人さん。
モデルじゃなければ女優さんか、もしくはあのセンターの奪い合いばかりするグループの一員か。
いや待てあたし。
二十云年生きてきた中で、まったく知らない他人が家の中にいる状況があっただろうか。
いや、無い。あたしが知る情報の中でこの女性は、テレビか何かのドッキリで無い限り不法侵入者と言う奴だ。
「お……お巡りさん?」
「え、あ、たんま!」
携帯電話を片手にふるえるあたしに、必死に手を伸ばすお嬢さん。
警察呼んだらそれが来るまでどうすればいいんだろう。絶体絶命なんじゃなかろうか。
あれ、警察って何番だっったっけ?
確認する暇なんてなくて、三回のコールの末電話が繋がる。息を大きく吸った。
「もしもしあの……!」
あたしの話を遮るように、スピーカーから聞こえてきたのは明日の天気だった。
そしてそれに放心しているあたしの背後。
「明令になにをしてるんですか!」
ふらりと香る甘い花のような匂いと同時に。
凛とした声の誰かがいた。
「桜らめえええ!」
そうか、この女性はあたしにではなく後ろの誰かに腕を伸ばしていたのか。そう思うと同時に。
パコーンと、頭蓋骨に直接響くような音がした。
喩えではなく、本当に頭蓋骨に響いた気がした。
美人なお嬢さん二人に挟まれて、あたしの意識は静かに落ちていく。
開いたままの雑誌を目にして、あたしは密かに呟いた。
なにが最高だ。チクショウ。