犬も歩けば棒に当たる。…私は何に当たる?
□地方ゆるキャラ、あります。
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目を覚ました時、あたしは自宅のソファーに横になっていた。いったいなにがあったのだろう。
殴られて気を失って、それから。
体を起こしてパソコンを見る。メモリースティックが刺さったままになっているが、パソコンの電源は入っていない。
「気が付きました?」
台所の方から声がする。首を動かしたらそこに彼女たちはいた。
艶のある髪を後ろで括った、和風美人な女の子。
彼女の手には湯気をたてる筑前煮が。
あれ、ここはあたしの家じゃ無いのだろうか。なぜあたしがもてなしを受けているのだろう。
「貴方はここの住人でいらっしゃるのですか?」
「一応、そうです」
あたしが頷いたのを見て、彼女はにこりと笑った。少し申し訳なさそうに見えたから、さっきあたしを殴ったのは彼女で間違いない。
思い出してさすってみたら、こぶになっていた。触ると痛む。
大丈夫かいと、食卓テーブルに足を組んで座ったお姉さんが言った。
そういえば、警察の件ってどうなったんだろう?
「まぁまず、お話しは食事をしてからにしませんか?」
腰まで伸びたポニーテールが、尻尾と言うより束になった絹のようにさらりと揺れた。
あたしはソファーから立ち上がる。
筑前煮が無くなってきた頃、さてと眼鏡の美人さんが話を切り出した。何でもない事の様に。本当に、今日のテレビなにやってるの? と聞いてくるように、彼女は話を切り出した。
「私たち、トリップしてきちゃったみたいだ」
「まじか」
開いた口がふさがらなかった。ぽかんと、まじかのかの音のまま口を動かそうとしていなかった。
そもそも、トリップの意味すらまだよくわかっていなかったけれど。
彼女たちが悪人ではないことは、もう確信していた。
だって筑前煮美味しかったもん。とっておいた筍を使われたのは痛かったけど。
本当はチンジャオロースが食べたかったけど。
「外に出れば、その瞬間私たちは違法者だ」
「身分を証明できない。まず、この世界に存在していなかった時点で、そんなものあるはずがないのですが」
「なに、それ」
苦笑しながら二人は続けた。あたしはお茶碗の最後の一粒を口にいれて咀嚼して飲み込んだ。
かちかちと時計の針が自己主張している。
彼女たちはいったい何者なのだろうか。